とっておきの話

強くて優しい女たちのサバイバル旅行、『コンタクト・ゾーン』

【光浦靖子さんの旅する推薦図書】

文/光浦靖子 撮影/安永ケンタウロス

今回紹介するのは篠田節子さんの『コンタクト・ゾーン』。東南アジアにあるテオマバル国のバヤン島にバカンスにやってきた30代半ば独身OL3人の話。まっすぐな黒髪をぱっつんと切った、発音のいい英語を話す祝子。背が高く、空港でも大声で仕事の電話をしている真央子。色白で、お雛様のような整った顔に豊満な肉体を持つありさ。テオマバルは経済危機に端を発して、政情、治安が悪化している。そんな時だからこそ、テオマバルの通貨の暴落を利用して豪華なホテルに泊まり、ブランド品を安く買い漁ろう、というのが彼女らの旅の目的。俗。欲。嫌でしょう? 変に旅慣れてるとこ、それなりに稼いでいるとこ、嫌でしょう? この3人が、内乱に巻き込まれます。日本からの助けはない、連絡の取りようもない、八方塞がりの事態……。

 
この小説の初版は2003年。当時、私は32歳。仕事を始めて10年でした。この女性らの少し下になります。テレビの世界、特にお笑いの世界は男性ばかりで、女性ディレクターも女性放送作家もいませんでした。男が作った男の社会に、私が無理矢理入ったようなもの。どうやったら生き残れるのかしら。気にしてなくても、性別は目立ち、見逃してくれないもので、気づけば対立構造になっていたりします。女ってなんぞや?

 
作中に登場する彼女らは、だてに独身でいたわけじゃありません。仕事に費やした時間、自分磨きに費やした時間、それがサバイバルに役立ってゆくのです。スキル、体力、肝の据わり方。痛快です。女たちは横につながり、縦にはつながりません。リーダーはいない、得意なものを得意な人間がやる。人が弱っているときは、背中をなで、胸に抱く。

 
生きるためにすべてを使って生きる彼女らに熱くなります。最後に「日本難民」という言葉が出てきます。私も日本難民かも。

 

『コンタクト・ゾーン』
篠田節子 著
文春文庫
上巻713円・下巻660円(ともに税込)

 
光浦靖子
みつうら やすこ/1971年、愛知県生まれ。プロダクション人力舎所属。幼なじみの大久保佳代子と結成したオアシズでデビュー。バラエティー番組、ラジオなどに出演するほか、舞台やコラム執筆など多岐にわたり活動。主な著書に『ハタからみると、凪日記』(毎日新聞出版)、『靖子の夢』(スイッチ・パブリッシング)など。

 

(SKYWARD2020年6月号掲載)
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