旅の寸景

受け継がれし10帖の浜松凧【職人の想いを形に①】

文/東野りか 撮影/富貴塚悠太

約450年前の永禄年間に、当時の浜松城主の引間氏が長男誕生を祝って、凧を揚げたことが祭りの起源ともいわれる「浜松まつり」。祭りに欠かせない凧の制作を長年続ける伊藤安男さんに、凧作りの極意をうかがった。

 
初めて生まれた子どもの健康と成長を願い、大凧のように空を翔ぶがごとく生きてほしい。そんな親の切なる願いが込められた多くの凧が大空に舞う。ここ浜松は“遠州のからっ風”と呼ばれる強い風が吹くので、凧揚げには最適な地だ。その凧制作を40数年間続けているのが浜松市中区天神町の伊藤安男さん。「凧作りは非常に繊細な工程で行われます。まず淡竹を細く切って、縦横に組み合わせて骨組みを作ります。そこに和紙を貼り付けていきますが、ほんの少しずれるだけで全体が歪んでしまうので慎重に貼り合わせなければいけません」。

 
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▲左/色ムラにならないよう、塗りは一気に仕上げる。伊藤さん親娘は左右両利きなので、どんな角度でも色塗りができる。右/淡竹は弾力性があって肉厚なので、骨組みに最適。

 
そして和紙に町のシンボルである字や絵を描き、右上に家紋、左下に子どもの名前を入れ、青、赤、黄色などの染料で丁寧に色付けする。しかしようやく仕上がっても、ひと安心とはいかない。「もしお客さまの要望の家紋とこちらで調べた家紋が違っていたり、漢字の“ハネ”や“トメ”が違って入れば、それは失敗作です」。つまり売り物にならないのだからシビアな仕事だ。もちろん、すべての工程が手作り。手間も時間も掛かり、細かい神経を使うので、浜松まつりが近づくと寝る間も惜しんで制作に没頭する。「この時期は、頭のなかは凧のことでいっぱい。凧をお渡しして、お客さまの満足した顔を見た時、やっとホッとできます」と伊藤さんは微笑む。

 
現在は娘の友岐さんが、凧作りを受け継いでいる。「以前は男性だけの仕事だったので、女性は凧に触ることすらできなかった」というから、時代は進んだ。しかし凧の製法は昔のまま。それが“伝統”というものなのだろう。来年もまた、伊藤さんの凧が、からっ風に乗って勇猛果敢に空を舞う。どの凧よりも高く──。

 
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▲家紋や文字の型も手作り。作品のお問い合わせは、「株式会社 伊藤さん家の凧工房」(053-463-1572)へ。

 

浜松まつり

hamamatsumatsuri

▲5月3日は初子の誕生を祝う「初凧」を揚げる。4〜5日は、各町が互いの凧糸を絡ませ相手の糸を断ち切る、迫力満点の「糸切り合戦」を行う。

 
浜松に住む人々の1年は、祭りに始まり、祭りに終わる。毎年5月の初旬に開催される「浜松まつり」の目玉は「凧揚げ合戦」。町それぞれの図柄を描いた凧が大空を舞い、会場全体が熱気と歓喜に包まれる。JR「浜松駅」からシャトルバス利用で会場へ。お車では会場周辺の混雑が予想されるため、「浜松駅」または「飯田公園臨時駐車場」からシャトルバスをご利用ください。
hamamatsu-daisuki.net/matsuri

 

浜松市へのアクセス

全国主要空港から名古屋(中部・小牧)、静岡空港まではJALグループ便・コードシェア便が運航。中部国際空港、小牧空港、静岡空港からは、バス、電車、レンタカーなどで浜松市へ。

 

(SKYWARD2018年10月号掲載)
※記載の情報は2018年10月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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