世界には不思議な形状をした場所がいくつもありますが、トルコのカッパドキアはそのなかでも代表的なものといえるでしょう。「妖精の煙突」や「キノコ岩」と呼ばれる奇岩の自然文化的側面と、古代から築かれてきた人間と社会の歴史という文化的背景が評価され、1985年にはユネスコの世界遺産に登録されました。
切り立った岩肌や、天に向かってそそり立つ岩々に囲まれたこの都市には、時には敵から身を隠す場として、社会生活の場として、さらには中東やアジアと西欧を結ぶ中継地点として、あらゆる地域の思想・哲学や宗教、そして商業の交易によって高い文化意識がもたらされてきました。
そんなカッパドキアを初めて訪れたのは10年ほど前、現地に暮らして観光業に携わる日本人女性をテレビ番組で取材するのが目的でした。その女性はカッパドキアの名物でもある気球体験のコーディネートも手がけていて、取材班のスタッフたちもカッパドキアを上空からぜひ見てみたいと盛り上がり、仕事とは別に個人的に気球にトライすることになりました。
私はといえば、高い場所は苦手なのですが、またとない機会だと思って、思い切って体験してみることにしました。
乗り込んだ気球は瞬く間に上空へと浮かび上がり、地上を見下ろすと航空写真のような景色が果てしなく広がっていました。最初は足がすくみましたが、下から見ただけでは感じられないダイナミックな光景は圧巻、周辺に浮かんでいるたくさんの気球がまるで空と茶色い岩肌の間に咲いた花のようで、思わず感嘆の声が漏れてしまいました。
地面を歩きながら岩とともに歩んできた歴史を感じ、上空からは地球という惑星のスケールの大きさを体感できるというカッパドキアは、これからも時空を超えて人々の心をとらえ続けていくのでしょう。
やまざき まり
漫画家・文筆家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『プリニウス』(とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』『国境のない生き方』『ヴィオラ母さん』『パンデミックの文明論』(中野信子と共著)、『たちどまって考える』など。
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