ポルトガルのリスボンに暮らしていた頃、よく出かけていたのが南部のアレンテージョ地方でした。車で1時間も走れば辺りはコルク樫やオリーブの林がどこまでも続く広大な景色となり、晴天率の高い真っ青な空にはコウノトリたちが大きな羽を広げて悠々と飛び交う様子が楽しめます。
さらにスペイン国境を目指して、ほとんど対向車もないのどかな道をどこまでも進んでいくと、ヴィラ・ヴィソーザというポルトガル王朝を司ったブラガンサ家ゆかりの小都市に辿りつきます。街の中心には、地元の大理石を使ったイタリア・ルネサンス様式のブラガンサ公爵のお屋敷がありますが、正面の長さだけで110m、中には78もの豪華な装飾品やフレスコ画で飾られた部屋があり、大航海時代で潤っていたポルトガル王国の財力の凄まじさを痛感させられます。
実はこの壮麗な宮殿には、今から遡ること約440年前、日本からイエズス会の引率でポルトガルへやってきた天正遣欧使節の4人の少年たちがしばらくの間、逗留していたことがあります。
滞在中は当主の第7代ブラガンサ公テオドシオ2世や、彼の母であるカタリーナに、まるで家族のように温かく親切な待遇を受けたとされています。客人用の豪華な寝室をあてがわれ、毎日ご馳走を振る舞われた少年たちは、感謝の意を示すために日本から持ってきた羽織袴姿を披露したり、日本で習得したリュートなどの楽器の演奏をしたといわれています。4人のうちの1人が長旅の疲れで病気になっても、カタリーナは自ら彼の看病に尽くし、その後4人はすっかり長旅の疲れから元気を回復して、マドリードへ発っていったそうです。
ヴィラ・ヴィソーザを訪れることがあったら、ぜひ宮殿の中に入って、戦国時代の日本からやってきた彼らが当時どんな思いで過ごしていたのか、ぜひ想像を膨らませてみてください。
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。日本女子大学国際文化学部国際文化学科特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、第1・2巻が好評発売中。
(SKYWARD2026年8月号掲載)
※記載の情報は2026年8月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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