パイロットがどのようなマニュアルを使っているかご存じですか? 単にマニュアルとだけ聞くと簡潔にまとめられたものを想像されるかもしれませんが、実は膨大な量があるうえ、内容も多岐にわたっています。
その主だったものは大きく三つの分野に分けられます。少し専門的な話で恐縮ですが、一つ目は飛行計画や気象条件など運航の基準となる各種規定について。二つ目は航空路や空港ごとの規則や制限事項などについて。そして最後に飛行機の運用限界や操作方法、航空機システムなどについてです。ちなみに三つ目のマニュアルは機種ごとに異なっており、特にボーイング機材とエアバス機材では大きく違います。
マニュアルの分量は、最重要規定にあたる部分だけで電話帳5冊分くらいになります。そしてその内容について詳しく説明したり、操作手順を解説したり、マニュアルが作られた背景などを紹介するものもあります。さらにパイロットにとって欠かすことのできない訓練関係のマニュアルなどもあわせますと、数万ページにも及びます。
こんな膨大な量を持ち運んだり、そのなかから必要な情報を探し出したりするのは大変だと思いませんか? かつては印刷されたものに付箋を貼ったり、必要な部分だけ抜き出したりするなど各自がさまざまな工夫をしていました。
しかしながら、近年ついにこれらのマニュアルが電子化され、タブレット端末に入れて持ち運ぶことができるようになったのです。これによりパイロットの持っているフライトバッグが軽くなっただけでなく、必要な情報も検索機能で見つけ出しやすくなりました。
このように使いやすくなったマニュアルですが、さらに電子化の利点を生かし利便性を高めるために、昨年新しいシステムが導入されました。パイロットの使うタブレット端末に新しいアプリがインストールされ、ダウンロードや検索が飛躍的に速くなっただけでなく、インターネットで使われているようなリンク機能も搭載されたのです。
さて、改善されたマニュアルが実際のフライトでどのように役立つのか、一例をご紹介します。例えば、飛行中にお客さまが急に体調を崩された場合、状況によっては目的地を変更して途中の空港に着陸せざるを得ないことも想定されます。しかしながら、近くの空港ならどこでもいいわけではありません。滑走路や誘導路についてはもちろんのこと、駐機可能なスポットがあるのか、また給油や地上電源などの設備は整っているのかなど、さまざまな情報を短時間で調べる必要があります。このような場合、検索機能が優れていると必要な情報に辿り着きやすく、運航に余裕が生まれ、ひいては安全性の向上につながるのです。
空港ですれ違うパイロットのフライトバッグをご覧ください。以前よりコンパクトになっていますが、持ち運んでいるマニュアルの性能は格段に進化しています。
山口幸政 Kosei Yamaguchi
JAL
ボーイング787型機
出身地:香川県
趣味:食べ歩き(特にB級グルメ)
座右の銘:雲外蒼天
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