突然ですが、皆さまがお乗りになっている飛行機が飛ぶために欠かせないものといえば何でしょうか? 操縦士、燃料などいろいろありますが、そのなかに、出発前に機長が必ず確認すべき大切な書類「搭載用航空日誌」があります。
「搭載用航空日誌」は「ログブック」とも呼ばれ、飛行記録や整備作業の履歴など、安全運航に関わる重要な情報が記載される、飛行機の「カルテ」のようなものです。
私たちが飛行機に入るとまず、ログブックを開きながら整備士から整備状況について説明を受けます。出発準備が整うと機長はログブックを受け取り目的地へと飛行し、フライトが完了すると署名をして、また次の整備士、運航乗務員へと引き継いでいきます。もし飛行中、飛行機に違和感を覚えた場合は、状況をログブックに記入し、点検や修復を整備士に依頼します。そして整備責任者が作業を完了して署名をすると、再び運航可能となります。このようにログブックは、整備士から運航乗務員、運航乗務員から整備士へとつなぐ「バトン」の役割も担っているのです。
このログブックは長年、紙の書類として手書きで記入されており、個々の飛行機の記載内容をデータベース化するためには日々膨大な手入力作業が必要でした。そこで、この負担を軽減し、迅速な運航整備間の情報共有や確実なデータ蓄積を可能にするためのシステム開発プロジェクトを立ち上げ、昨年夏、エアバスA350型機の就航時より、ログブックの内容を直接電子的に記録し保管する「電子ログ」システムの導入を実現しました。現在はボーイング737型機においても使用を開始し、順次、全機種に展開していく予定です。
今回導入したシステムでは、飛行機に搭載された専用のタブレット端末から入力したデータをシステム内で連携することにより、関係者全員がすぐに最新の情報を確認できます。また、記録が必要な運航や整備の主な情報をシステムから自動で取得したり選択肢からの入力とすることで、正確性の向上と迅速化を図りました。確認項目が各段階ですべて実施されないと次に進めない仕様としていることも電子化の効用です。
JALの安全運航は、運航乗務員と整備士の信頼、チームワークのうえに成り立っています。「電子ログ」を介したリアルタイムの情報共有やシステム連携は、その絆を強固なものとするツールとなっていくでしょう。
分厚い紙の帳面からスマートな電子スタイルへと形は変わりますが、今まで積み重ねてきた貴重な記録は、これからもサーバー上にデータとして、しっかりと蓄積されていきます。運航乗務員も整備士もタイムリーな連携をさらに深めつつ、1機1機、1便1便を大切に、日々のフライトに臨んでまいります。
藤澤崇 Takashi Fujisawa
JAL
ボーイング737型機 機長
出身地:東京都
趣味:オープンウォータースイミング
座右の銘:先憂後楽
関連記事