今回紹介するのは崎山克彦さんの『何もなくて豊かな島』。1987年、元出版社勤務の崎山さん(当時50代)は、フィリピンのセブ島の近くのオランゴ環礁にある小さな島「カオハガン島」を購入します。1周ゆっくり歩いて小一時間の、電気も水道も通っていない、自然豊かな島。そこには300人ほどの島民がいます。漁と土産物作りで生計を立て、大きな島に行って生活に必要な物を買います。この島に移り住んだ崎山さんは、その島民たちと一緒に、ちょっとずつ、豊かな生活を作ってゆきます。水問題、学校問題、この島の収入源問題……。豊かってなんぞや?
ちなみに、海中で大きいほうをする話、豚の丸焼きを作る話、具体的で臨場感があっていつ読んでも好きです。そう、この本は読む度に感じ方が変わるんです。
初めて読んだとき、私は20代でした。片思いしてた男性がこの本のファンで、彼と共通の話題ほしさに読んだんです。正直、この島の生活に魅力は感じませんでした。上京し、芸能界に入り、刺激の洪水に流されているときでした。
30代に読んだときは、島の生活に憧れました。すぐにでも仲間に入れてくれないか、と本気で思いました。
40代、どこも一長一短だよな、妙に冷静でした。そして、もうすぐ50代。崎山さんが島を買った年齢に近づいています。第二の人生かぁ。コロナによって社会は変わるんでしょうね。今までどおりに仕事があるとは思えません。お金、健康、能力、今、手元にどれだけある? 自分は何が一番ほしい? 何を我慢できる?
相方の大久保(佳代子)さんと、いとうあさこさんが、2年前の正月旅行でカオハガン島に行ったと聞きました。ホテルにあったパンフレットを見て、やることがなかったから行ったそうです。本の存在も知らずに。なんか腹たちました。
『何もなくて豊かな島』
崎山克彦 著
新潮文庫
光浦靖子
みつうら やすこ/1971年、愛知県生まれ。プロダクション人力舎所属。幼馴染みの大久保佳代子と結成したオアシズでデビュー。バラエティー番組、ラジオなどに出演するほか、舞台やコラム執筆など多岐にわたり活動。主な著書に『ハタからみると、凪日記』(毎日新聞出版)、『靖子の夢』(スイッチ・パブリッシング)など。
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