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歩いて巡る湯治場の風情
温泉は日本中にあるけれど、大分県はケタが違う。源泉の数、湧出量ともに全国1位で、日本の源泉の約16%が県内にあるそうだ。
そんな“温泉県”の象徴、別府へとやってきた。『豊後国風土記』に記述があることから、少なくとも8世紀頃にはこの地に温泉が湧いていたとみられる。千年以上もの間、ずっと源泉掛け流しなのである。
ただ、高温の噴気が勢いよく上がっている様を目にした古代の人たちは、「地獄!!」と恐れたのか、泉源(せんげん)は近づいてはならない危険なものとされていたらしい。後年、別府八湯のなかでも湯治場としての歴史が古い「鉄輪温泉(かんなわおんせん)」を湯治場として開いたのは、鎌倉時代に全国を旅した僧侶、一遍上人(いっぺんしょうにん)と伝えられている。
鉄輪では、古来の名残で今でもお湯と噴気の出る泉源のことを「地獄」と呼んでいる。その鉄輪は、歩いているだけで温浴効果を得られそうな所。道のそこかしこから、かすかに硫黄の香りがする湯気がほわわと立ち上っていて、しっとり温かい。角を曲がれば湯気立つ道。猫も温まっているのか、目を細めて気持ちよさそうにしていた。
ここでは、温泉は生活の傍らにある。入浴料無料~数百円の外湯が何軒もあって、地元の人はそれぞれお気に入りの湯に通う。泉質のバリエーションが豊富なうえ、珍しい「蒸し湯(むしゆ)」も。休憩しつつ湯巡りをするのも楽しいだろう。
所々、軒先に湯気をしゅんしゅん上げているかまどが並んでいる。卵や魚介といった食材を笊(ざる)にのせて、高温の蒸気で「地獄蒸し」にする伝統の調理法だという。地獄のお味や、いかに?
別府の共同浴場といえば、歓楽街にある「竹瓦温泉(たけがわらおんせん)」も忘れてはならない。明治12(1879)年創設の歴史ある市営温泉は、唐破風(からはふ)造り屋根の建築が見事。男女で異なる源泉と、名物の砂湯がある。
竹瓦温泉
住所:大分県別府市元町16-23
電話:0977-23-1585
休日:普通浴…12月の第3水、砂湯…第3水(祝日の場合は翌日)
水平線を望む絶景の湯
今宵の宿は、海辺の温泉リゾート「AMANE RESORT SEIKAI(潮騒の宿 晴海)」。
客室はどこも例外なくオーシャンビュー、しかも源泉掛け流しの露天風呂付き。お湯が豊富に湧出する別府だからこそ叶う贅沢だ。別府駅から車で15分ほどと便利な立地ながら、街の喧騒は遠く、ゆったりとした時間が流れている。
なにはさておき、さっそく客室の露天風呂へ。湯船に浸かると、ちょうど目線の高さに水平線。きらきら光る海の向こうには、晴れていれば四国が見える。潮騒を聞きながら、日常の疲労感が体からはがれ落ちて軽くなるようだ。源泉と眺望の効果、絶大なり。
また、1階の大浴場は海面とほぼ同じ高さにある、言うなれば“インフィニティ温泉”。海と一体になるような不思議な感覚は、きっとここでしか味わえない。朝、夕と時間ごとに変わる光と海の色を何度も確かめたくなる。
夕食の時間。冬の大分で何を食べよう? こちらの宿のお薦めは、ふぐ。季節限定で、とらふぐ尽くしのコースを予約できる。
「大分のふぐ刺は、下関と比べて肉厚で大きめに切るのが特徴です。ひと晩寝かせて味をのせるので、旨味をしっかり感じられます」とは、食事処「海鮮料理 えいたろう」の料理長、渡邉達也さん。大分名産のカボスをたっぷり搾った自家製ぽん酢がまた旨い。ふぐ刺やふぐ鍋に舌鼓を打ち、地酒も入ってすっかり上機嫌に。食事処は日本料理、フレンチとあわせて3箇所から選べる。連泊しても飽きずに楽しめるに違いない。
AMANE RESORT SEIKAI
住所:大分県別府市上人ヶ浜町6-24
電話:0977-66-3680
URL:www.seikai.co.jp
足を延ばして秘湯に立ち寄り
いつもなら旅に出るとむくみやすい体もすこぶる軽やかなのは、温浴効果のたまものだろう。困ったことに、もう温泉なしでは生きられないかもしれない。心ゆくまで堪能したと思っても、少し時間がたつとまたお湯が恋しくなる。よし、立ち寄り湯に行こう。
「夢幻の里 春夏秋冬」は、市街地から少し離れた堀田温泉(ほりたおんせん)の立ち寄り湯。緑濃い山あいに、男女別の大露天風呂、3つの貸切露天風呂、2つの内湯がある(2020年11月現在、内湯はお休み中)。
朝見川の源流沿いに連なる貸切風呂のなかでも圧巻は最奥にある「滝の湯」。流れ落ちる水しぶきがかかるほどの至近距離で滝を仰ぎ見る大迫力の露天はここの一番人気。貸切風呂は4名まで入れるので、秘湯らしい野趣を満喫しつつ、家族で安心して湯浴み(ゆあみ)ができる。
紅葉、雪景色、桜、ホタルと、四季折々の山の自然を求めて、何度も訪れる人が多いのも納得の絶景露天だった。
夢幻の里 春夏秋冬
住所:大分県別府市堀田6組
電話:0977-25-1126
休日:不定休
URL:http://mugen-no-sato.com
黒澤彩
くろさわ あや/ライター・編集者。女性誌を中心に、花、食と料理、暮らしまわりの記事を執筆。書籍の企画編集も手がける。
鮫島亜希子
さめしま あきこ/東京生まれ、インドネシア育ち。藤代冥砂氏に師事。ポートレートやライフスタイル、旅写真を中心に活動中。カレー好きが高じ、スパイスユニットtributesとしても活動を広げている。
大分(別府)へのアクセス
東京(羽田)、大阪(伊丹)から、大分空港へJALグループ便が毎日運航。空港からは車、バスなどで移動。
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