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南風(ぱいかじ)吹き抜ける集落。
飛行機の窓から外を覗き込むと、主翼の向こうに琉球ガラスを想わせるコバルトブルーの海と小さな島々がいくつか見える。沖縄には47の有人島と113の無人島があるというけれど、一体どの島だろうか。無人島にもカウントされない名もなき島だろうか。
もう何度も沖縄を訪れているはずなのに、旅の始まりはいつも少しだけ緊張してしまう。とりとめもなくそんなことを考えていると、やがて飛行機は那覇空港へと着陸した。
空港では自動検温やアルコール消毒こそあったけれど、沖縄は変わらずいつもの沖縄だった。あの南の島ならではの、温かくて、くすぐったいような空気感はそのまま。
少し緊張がほぐれ、気持ちが軽くなったところで、レンタカーをピックアップして本島を北へと向かった。最初の目的地は今年7月に開業した「星のや沖縄」だ。
読谷村(よみたんそん)で国道58号を残波岬(ざんぱみさき)方面に折れ、サトウキビ畑の農道をひた走る。「こんなところにリゾートがあるの?」とちょっと不安になりかけた頃に、琉球王朝時代の城壁からインスパイアされたという高さ4.5mのグスクウォールが現れる。その距離、南北に約1km。この壁の向こう側が「星のや沖縄」の広大な敷地となる。
深海を想わせる幻想的なレセプションでチェックインを済ませると、さらに非日常へのエスケープ感が高まる。
壁の向こうに広がっているのは、シークワーサーやアセロラなどの畑と、低層2階建ての客室棟、その奥は海だ。沖縄でも珍しくなった自然海岸に沿って全100室の客室が並び(つまりは全室オーシャンビュー)、建物自体が低く抑えられているため、周囲の自然と一体になっている。もう少し時間がたって亜熱帯の植物たちが勢いを増せば、さらに美しく調和することだろう。
行き交うスタッフが纏(まと)っているのは、琉球王朝の礼装をモダンにアレンジしたもの。聞けば、リゾート全体で琉球王朝時代のグスク(集落や居城)の「今」を表現しているのだとか。なるほど、城壁に守られ、海風が吹き抜けるグスクは、確かに居心地がよさそうだ。
暮らすような海辺のひととき。
案内されたのは「ハル」と呼ばれるテラス付きの客室。入り口に大きなテーブルを配した土間があり、その奥にこれまた広々としたローベッドルーム。ベッドに寝転んだままでも大きな窓越しに海が見渡せる。
さて今回の旅の目的の一つにワーケーション、つまりは仕事をしながらバケーションも楽しんでしまおう、というねらいがあったのだが、これが思いのほかうまくいった。最初は分不相応なほど贅沢な環境にソワソワしてしまったものの、暮らすように過ごせる「星のや沖縄」のリズムに慣れてくると、心穏やかに仕事と向き合うことができた。
例えば食事。リゾートには琉球シチリア料理を供するダイニングのほかに「ギャザリングサービス」なるものが用意される。これは、あらかじめ下準備を済ませた料理が客室に届けられており、ゲストは備え付けの調理家電で最後の仕上げをして、好きなタイミングでできたての料理を味わえるというもの。
食事の時間を気にしなくていい、というのは仕事に集中したいときには何よりありがたい。同じ理由から、小さな子ども連れのゲストにも好評だという。
また気分転換の材料にもこと欠かない。海辺や中庭を散歩するだけでもいいし、敷地南端に隣接する「オールーグリル」や「バンタカフェ」に足を運んでもいい。午後には赤瓦屋根の道場で、アフタヌーンティー代わりに沖縄伝統のぶくぶく茶をいただくのも楽しい。
全長40mのプールは24時間、しかも40度まで加温できるので一年中泳げる(真夜中のプールは最高!)。ゲスト同士が密にならない、さりげない配慮も心地いい。ワーケーションを言い訳にして、近いうちに再び訪れてみよう。
星のや沖縄
住所:沖縄県中頭郡読谷村儀間474
電話:0570-073-066(予約)
URL:https://hoshinoya.com
真下武久
ましも たけひさ/エディター&ライター。男性ライフスタイル誌、企業広報誌、Webサイトなどで、旅、カルチャー、食、ワイン&リカーといったジャンルをメインに活動中。また各種ブランドの広告制作も手がける。
秋田大輔
あきた だいすけ/フォトグラファー。建築、ファッション、フード、旅行などのライフスタイル雑誌や、広告の撮影など、グローバルに活躍する。日本広告写真家協会アワードをはじめ、受賞歴も多数。
沖縄へのアクセス
東京(羽田)、大阪(伊丹・関西)、名古屋(中部)、福岡などから、沖縄(那覇)までJALグループ便が運航。小浜島へは、沖縄(那覇)からJALグループ便で南ぬ島石垣空港へ行き、石垣港からフェリーで約30分。
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