旅への扉

ようこそ、島のレストランへ

文/内貴美喜 撮影/永田忠彦

2月は旬の魚介が多い。カキ、ヒラメ、スクモエビ……日生(ひなせ)の小さな漁港も例外ではない。滋味深い冬の魚を目当てに備前市・日生町に出かけよう。

 

豊かなアマモに育まれた旬の魚たち

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瀬戸内の水面に朝の光が差し込む頃、小さな漁港に、ユリカモメを引き連れた漁船が入ってくる。ここは岡山県備前市の日生漁港。規模は小さくても、水揚げされる魚の豊富なバリエーションが自慢だ。ヒラメ、ワタリガニ、スクモエビ……。高級魚と誉れも高い魚たちが続々と運ばれると、進行役“せりこ”の掛け声で競りが始まる。市場が活気づく。日生漁港の日常で、最も華やかな時間だ。近頃は海水温上昇の影響で、水揚げ量が減ったそうだ。近くにいた漁師が嘆く。「昔の競りは1時間以上は続いたのに」と。

 
沿岸漁業が盛んな日生。なかでも小型定置網漁の一つで、明治初期に始まった漁法「ツボ網漁」が今も息づく。魚の通り道に網をかけ、アマモ場に集まる魚などを獲るこの漁法は、入り口も出口も開いたまま。魚の生態をうまく利用した究極のサステイナブルな漁法だ。獲り過ぎないことで、海からの恩恵をいただくという精神が基本になっている。

 
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▲左/五味の市の店頭には漁師のおかみさんが立ち、魚の美味しい食べ方などを教えてくれる。右/競りは朝7時頃にスタート。

 
魚介類の産卵や小魚の餌場として欠かせないアマモは、浅瀬に生息する水草だ。水質の浄化、栄養の再配分にも一役買う。ツボ網漁の漁師たちが、最初に漁獲不振に気づいたのは昭和60年代だという。「それはアマモの減少によるものでした。豊かな海を取り戻すために、漁師たちが中心となりアマモの再生活動を行っています」と日生町漁業協同組合の天倉辰己さんは話す。

 
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▲左/重さ2kgはあろうかというヒラメの大物を仕入れた。右上/日生カキ。右下/カキの稚貝が仕込まれているホタテの殻。

 
日生はカキのお好み焼き「カキオコ」で有名な町だ。カキの殻は産業廃棄物として捨てられる運命だが、このカキ殻を海底に敷き詰めたところ海底のヘドロが改善、海水の透明度も増し、アマモが根づいたという。以来30年の地道な活動の末、アマモ場は現在までに250haまで再生。その結果、私たちは日生の豊かで多種多彩な魚を食すことができるのだ。

 

五味の市 日生町漁協市場
電話:0869-72ー3655
住所:岡山県備前市日生町日生801-4

 

瀬戸内の恩恵を心ゆくまで。小さな島のレストランへ

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▲左/オーナーシェフの寺田さん。右/頭島漁港。定期船「のりなはーれ」の乗降場所でもある。

 
「日生の多様な魚を手に入れたければ、五味の市に行くといいですよ」

 
小さな離島、頭島で「頭島レストラン」を営むシェフ・寺田真紀夫さんは、自身の店への道すがら、そう教えてくれた。寺田さん自らも早朝、五味の市に併設する日生漁港の競り場で、レストランで使用する魚を仕入れる。

 
「日生では、毎朝生きた魚を直接仕入れることができるのです。目の前でさまざまな魚が水揚げされ、そのどれもが泳いでいる。生きている魚しか流通していない。すべてが見えるわけですから、ここには食材に対してのストレスが全くありません」

 
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▲左/元郵便局だった築70年のレトロな建屋をリノベート。右上/寺田さんのスペシャリテ「日生カキのリゾット」。右下/予約は一日、昼夜各一組のみ。

 
生産者との付き合いや地域食材を深く掘り下げ、備前市の食の大使として、地域の食を発信する寺田さん。生産者の思いが色濃い地元ならではの地域性のある食材を、一皿に表現するのが使命と思い、より突き詰めた新しい表現ができないか……と日々模索しながらメニューを構成する。特に良質な漁場に恵まれたこの地では、魚を食すことが自然な流れだという。だからこそ、寺田さんの考えるメニューは前菜からメインまで、デザート以外はすべて地元産の魚で構成されている。それは大胆なチャレンジだったが、今ではその特異性が唯一無二の存在になった。全国から「頭島レストラン」を目指し美食家が集まってくる。

 
「瀬戸内のこの豊かな海の恩恵のおかげで、レストランを営んでいけるのです。この海に対してどう貢献できるだろうか、といつも考えています」

 
寺田さんは、日生町漁協が進めるアマモ場再生の取り組みを一緒に行い、自ら日生の海の素晴らしさを発信する広報役も買って出る。

 
2月、日生カキは最も美味しい季節を迎える。それを堪能するなら、2月の第4日曜に五味の市周辺で開催される、「ひなせかき祭」に出かけるのがお勧めだ。1年ものの日生カキは、小ぶりながらも濃厚な甘みとプリッとした食感が特徴。また、ヒラメも旬という。「この時期のヒラメは、身が締まり、風味もあって食べ応えがありますね」と寺田さんも太鼓判を押す。これは、日生に行かない手はない。

 

kashirajima restaurant cucina terada(頭島レストラン)
電話:0869-92-4257
住所:岡山県備前市日生町日生2766-3
URL:www.okayamaterada.com
※予約はWebサイトからのみ受け付け

 

頭島にいらっしゃ〜い!

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▲左/頭島漁港に寄港する「のりなはーれ」。右上/船長さんは地元出身。右下/頭島ではミカン狩りも楽しめる。

 
日生諸島の中心に位置する頭島は、周囲約4㎞、人口が300人程度の小さな島だ。漁業と民宿が生業のこの島に、寺田さんが本格的なイタリアンレストランを立ち上げたのは2016年9月のこと。日生と頭島は、2015年に「備前♡(ハート)日生大橋」で結ばれてから、そのおかげでグッと交通の利便性が高くなった。JR日生駅からは、タクシーで20分もかからない。また、島民の足は、もっぱら「のりなはーれ」という定期船だ。日生港を起点に鴻島・大多府島・頭島をつなぐこの船は、観光船としても使い勝手がいい。頭島には1日4往復運航する。

 
島内には2㎞程度の遊歩道があり、ミカンやイチジクの畑をぬって歩いて行くと小さな可愛らしい「たぬき山展望台」やプライベートビーチのような静かな海水浴場が……。この島から見える景色はどこか懐かしく、そして美しい。島の入り口にある「頭島グラウンドゴルフ場」からは瀬戸内の穏やかな海と連なる島々が一望できる。夕暮れ時「のりなはーれ」や大型船が行き交う様を眺めていると、時間がたつのを忘れてしまう。お薦めの絶景スポットだ。

 
目の前が瀬戸内という類いまれなこの環境に魅了され、頭島を拠点にしたという寺田さん。小さな港の、穏やかな海から作られた一皿は、私たちの旅情をそそる魅力的な誘いだ。

 

NORINAHALLE のりなはーれ
電話:0869-72-0506(大生汽船)
URL:www.taiseikisen.com

 
内貴美喜
ないき みき/ライター・編集者。旅にまつわるさまざまなコンテンツ制作に携わり、近年は動画ディレクションも手がける。

 
永田忠彦
ながた ただひこ/写真家。ポートレートに定評があり、近年はWeb配信の映像制作にも取り組んでいる。

 

日生へのアクセス

東京(羽田)と沖縄(那覇)から岡山桃太郎空港までJALグループ便が毎日運航。空港から日生へは、バスや電車、レンタカーを利用し約1時間。

 

(SKYWARD2020年2月号掲載)
※記載の情報は2020年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
※最新の運航状況はJAL Webサイトをご確認ください。

 
 

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