旅ごはん

ニースで食べたい! ヒヨコ豆のソッカ

文/町田陽子 撮影/吉田タイスケ

南仏コートダジュールの街ニースには数々のスペシャリテ(名物)があるけれど、一つだけ、これだけは絶対に食べてとアドバイスするなら、迷わず「ソッカ(Socca)」を挙げる。たった3ユーロ(約360円)で味わえる滋味深いローカルフード。これを食べずしてニースを去るなかれ!

 
旧市街のサレヤ広場では月曜以外の毎日、マルシェが立つ。青果、花、雑貨の店が細長い広場にずらりと並び、ぶらぶら散策するだけで楽しい観光スポットでもある。道ゆく人の足取りはじつにゆっくり。店主も椅子に座って新聞に夢中だったり、お客さんと延々おしゃべりしていたり。ここは南仏。郷に入っては郷に従え。のんびり歩くのが吉。

 
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▲サレヤ広場に、花や青果の屋台がずらりと並ぶ。

 
しばらく行くと、なにやら人だかりが……。マルシェでひときわ目を引く行列の店だ。みんな、じっと並んで何かを待っている。と、そこに、「チリンチリン」と自転車のベルの音。やって来たのは、白髪のおじさん、ロベール。見るからに重そうな鉄板を荷台から降ろし、屋台に運んでいる。そう、これぞニースで1、2を争う評判の高いソッカ。ソッカとは、ヒヨコ豆の粉で作るガレットのような薄い素朴な“お焼き”だが、2018年には英国のチャールズ皇太子が立ち寄り賞味したほどの逸品である。どうやら作っているのは別の場所で、この道37年のロベールさんができたてのアツアツを届けてくれているよう。荷車を送り出している店を訪ねてみよう。

 
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▲屋台では、鉄板から取り分けたソッカを紙にくるんで手渡してくれる。

 
うねうねと入り組んだ旧市街の路地の先に、ソッカの店「シェ・テレザ」はあった。日本でいえば、町のお好み焼き屋さんのような佇まいのお店。ヒヨコ豆の粉、水、オリーブオイル、塩を混ぜた生地を鉄板に流し込み、300度の高温で焼き上げること10分。黄金色に輝くソッカが現れた。ヘラでこそげながら取り分け、最後に黒胡椒をひとふり。ヒヨコ豆の甘くやさしい匂いが鼻に抜け、そのあと黒胡椒の辛味がピリッと追いかけてくる。ソッカは熱々を食べなくてはいけない。ニースっ子いわく「ソッカがお客を待つんじゃない。お客がソッカを待つんだ」。

 
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▲左/ソッカを運ぶロベールさん。右/ニース旧市街の町並み。

 
シェ・テレザは1925年に創業したソッカの老舗だが、じつは前身のパン屋さんの薪(まき)窯を使い続けている。1867年から続くパン屋というのだから、ざっと150年以上の年代物だ。この店の美味しさの秘密は、まさにここにある。この大きな窯でこそ、外はパリッ、中はふんわり、絶妙な焼き加減のソッカに仕上がるのだ。薪は主にブナを使用。1年で24トンもの薪を使うという。ソッカは究極にシンプルな料理だが、家では絶対に美味しく作れない。だから昔から、ソッカは専門店で食べるスナックと決まっている。

 
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▲シェ・テレザの年季の入った薪窯の前で。

 
ニースでは「ソッカ」だが、ニースの西の港町トゥーロンでは同じものを「カード」といい、さらに西のマルセイユに行けば「パニス」という厚みのあるお焼き、中東ではディップ「フムス」がヒヨコ豆料理として有名である。大昔から地中海や中東の人たちは、ヒヨコ形をしたかわいらしいこの豆を料理に用いてきた。昨今、地中海料理は健康的だと注目をあびているが、この豆もタンパク質やビタミン、ミネラルが豊富。腹もちはいいのにグルテンフリーなので胃もたれせず、いいこと尽くめの食材である。その昔、ソッカは労働者が朝食として、また漁師が海に出る前に食べたというのもうなずける。

 
Chez Theresa

▲シェ・テレザはマルシェで1930年ごろからソッカを販売している。

 
お昼前になると、常連さんがやって来た。外のテラス、というか路上の席で、親子三代でアペリティフ。「食前にソッカをつまみながらロゼワインを一杯っていうのが幸せ。まちがいなく、うちの孫もこの習慣を受け継ぐでしょうね」。ソッカ以外にもパン・バーニャやピサラディエールなどのニース名物もあるので、ランチタイムに立ち寄ってみるのもおすすめ。ニースっ子に交じって、焼きたてソッカとワインで乾杯!

 
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▲左/常連のマダムもご満悦。右/アンチョビとタマネギの旨味たっぷり!ピサラディエール。

 

シェ・テレザ Chez Thérésa
住所:28, rue Droite 06300 Nice
営業時間:9:30〜15:30
休日:月
備考:ソッカ1人前3ユーロ(サレヤ広場の出店も同じ)

 
 

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