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【ニッポンうどん紀行】奈良「ぶれーど・う」の活きのいいうどん

「いいうどん」とは何だろう――。古今東西のうどん食いにとって永遠のテーマとも思えるこの問いに、おそらく答えはない。だが、“活きのいいうどん”となれば話は別だ。わざわざ名前を挙げたくなるお店がここ、奈良にある。

 
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▲奈良県桜井市。日本最大級の木造観音がある長谷寺で知られる。

 

人間味のあるうどんを目指して

 
「このうどん、生きている!」

 
岡本忠之さんの打つうどんを初めて目の前にしたとき、言葉を超えた生命力に心の底から感動が込み上げた。一本一本が生き生きと曲線を描き、二本とて同じものはない。まさに不整の美。ほんのミリ単位の差は食感の機微も生み、いじらしく身をよじったり、口内に麺肌をぴたっと寄せたり、ことに薄く細いものはところてんのごとく、ちゅるんっと喉の奥に消えたり。ああ今のをもう一度、と思った次の瞬間、また新たな食感に魅せられていく。一切機械を使わない完全手打ちが少数派の今、その心意気を思うと胸が熱くなる。

 
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▲かけうどん330円とちくわ天100円(いずれも税込)。人気の王道メニューだ。

 
「理想は人間味のあるうどん。工業製品みたいにしたくないんです。開業当時は腕の稚拙さをカバーする言い訳で使ってましたけど(笑)、今ではほんまにそう思います。たまに『最初から最後まで同じうどんを食べたい』ってお客さんもいますけどね。きれいにできたとしても、それはしません」

 
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▲小麦粉は外国産と国産のブレンドに中華麺用の準強力粉をほんの少し加えている。

 
澄んだかけだしも秀逸。昆布にイリコ、アゴ、スルメ、鰹節やメジカなどの混合節など9種類の旨味が重なり、一度味わったら忘れられない。

 

「うどんは大阪が一番!」から讃岐うどんの道へ

岡本さんは、生まれも育ちも生粋の大阪っ子。大阪芸術大学を卒業後、グラフィックデザインの世界へ進んだ。うどん打ちを志したのは42歳のとき。釣り仲間の一人から讃岐うどんツアーに誘われたことがきっかけだ。それまで「うどんは大阪が一番」と思っていた岡本さんは、ここで衝撃的な出合いを果たす。

 
「仲多度の『山内うどん』が凄かった。ねじれた麺がスクリューのように入ってくるあの感覚……あれで一気に讃岐うどんの虜になりましたね」

 
香川での強烈な体験は、次の行動へと岡本さんを突き動かす。「うどん屋になる」――しかも独学で。周囲は賭けだと言ったが、決めたらまっしぐら。だが、いくら好きでも打ち手としてはずぶの素人。粉のことはおろか、だしの取り方もわからない。さぞ開業までの道のりは長かったろうと思いきや、聞けばさにあらず。本業のデザイナー業の傍ら日々試作を繰り返し、なんとわずか1年で念願の「ぶれーど・う」を持ったというから驚きだ。岡本さんもまた、うどん界に稀にいる天才肌なのだろう。あの素晴らしいだしの引き方も、今のところ完全自己流と聞き、二度驚かされた。

 
「普通はしないんでしょうけど、うちは昆布もイリコもぐらぐら沸騰させるし、そもそも使っている素材もそんな高いもんじゃない。最後にコーヒーフィルターで漉して、一晩冷蔵庫で寝かせるのが効いているのかなと。他人から見たらめちゃくちゃやと思うけど、極力情報を入れたくないんです」

 
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▲岡本さん。趣味はジョギング。髭とニット帽がトレードマークだ。

 

どん底からの決意

物件との出合いは突然訪れた。国道沿いで田んぼと山に囲まれたのどかな場所。賃料の面から大阪での物件探しを断念し、たまたま車を走らせていたときに出合い、即決した。過去7、8回と店子が入れ替わった背景から不動産会社には「いわくつき」と言われたが、残された備品を利用できるのはありがたかった。なにより、大好きな讃岐うどん店の風景に似ているところが気に入った。オープンまでの準備期間の2カ月分の家賃を免除されるなど、物件のオーナーにも恵まれた。

 
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▲周囲の山々に赤銅色の屋根が映える。

 
一見、順風満帆にも見えるが、ふたを開けてみれば厳しい日々が待っていた。

 
「プレオープンの2日間だけ練習がてら1杯50円で出してみたら、思いのほか人が来てくれた。でも、いざオープンしたら客足がぴたりと止まっちゃって。玉取りしておいた麺やだしを全部廃棄する日もあって、現実はこんなもんかと落ち込みましたね」

 
もとより桜井市は外食が盛んな土地ではないそうだ。奈良らしく素麺文化はあるものの、どの家庭も内食が当たり前。人家もまばらな国道沿いという立地は、とりわけ分が悪かったのだ。このまま続けていけば、そう長く続かないかもしれない。岡本さんはある方針転換を決めた。

 
「お待たせしても、ゆでたてのおいしいうどんを提供する」

 
うどん屋に転身したとき以来の大きな賭けだった。だが、これが正解だった。当然、注文してから15分掛かるとわかるや店を出るお客さんもいたが、味は本物。ここでしか食べられないうどんがあると徐々にブログやクチコミなどで評判となり、今では遠方からもうどんファンが訪れるお店に。「MTKT(明太釜玉)」「KBG(釜バタージンジャー)」など謎かけのような独自メニューでも知られる。

 
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▲店内には岡本さんご愛聴のラジオ番組『続・麺通団のUDON RADIO うどラヂ!』(FM香川)が流れる。

 
ところで、かの有名SF映画へのオマージュでもある店名には、もう一つ意味があるらしい。

 
「修業しないままお店を持たせてもらってるので、無礼ですみませんという意味で“無礼道”も掛かっているんです。まあ後付けですけど(笑)」

 
思えば「blade」とは、「刃(やいば)」の意。己の腕を信じ人生を切り開いてきた岡本さんにこれほどぴったりな言葉はないだろう。

 
ここには我が道を行く、活きのいいうどんがある。

 
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▲今年7月で区切りの10年目を迎える。

 

ぶれーど・う
電話:090-1248-3488
住所:奈良県桜井市出雲1210-1
営業時間:12:00~14:30
休日:火・第1土

 
井上こん
ライター・校正者。各地のうどん食べ歩きをライフワークとし、雑誌やWebサイト、テレビなどさまざまな媒体でうどんや小麦の世界を紹介。「うどんは小麦でデザインできる」ことを伝えるため、週がわり小麦のうどんスナック「松ト麦」店主の顔も持つ。著書『うどん手帖』(スタンダーズ)。

 
 

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