旅の+one

オーロラ、ダイヤモンドダストなど……幻想的な自然現象をめぐる冬旅の楽しみ方

文/新宅裕子

厳しい気象条件によって生み出される、美しい冬の自然現象。その絶景は現地に行けば必ずしも出合えるものではなく、旅行先で見ることは奇跡のようなことかもしれない。しかし、簡単ではないからこそ、出合えたときの感動もひとしお。そんな神秘なる冬の自然現象を紹介しよう。

 

1.天空に輝く神秘に魅せられて

aurora

 

息をのむ、美しい光の舞

オーロラ、という言葉の響きに憧れを抱く人も多いのでは。太陽から放出される電気を帯びた粒子が地球という巨大な磁石に吸い寄せられ、空気中の酸素や窒素と衝突して生み出されるその自然現象は、エネルギーに満ち溢れた壮大な光のアートだ。

 
日本から飛行機を2回乗り継ぐこと約20時間。カナダのイエローナイフへと向かったのは、寒さ厳しい2月のこと。日中は宿で仮眠して夕食後に雪原に繰り出すという、まさにオーロラを見るためだけに、3泊5日の旅に出た。

 
-30℃の真夜中、厚手の防寒ジャケットにスノーブーツ、ファー付きのフードもかぶり、目だけが出ているようなスタイルで、星空を見上げながら待ちわびること約2時間。うっすらとした雲のような白い光が動き始めて感激したのも束の間、緑がかった光が一面に大きくうねり出した。爆発と言われるにふさわしい、激しい揺らめき。息をのむほどの美しい光の舞に、思わず寒さも忘れて見入ってしまったのだ。

 

オーロラ観賞にベストな場所は

オーロラ観賞のチャンスがあるのは北緯65〜70度付近の「オーロラベルト」と呼ばれるエリア。北米はカナダやアラスカ、北欧はフィンランドやアイスランド、スウェーデンやデンマークが確率の高いスポットとして有名だ。雲があると隠れてしまうので、雲のない晴れた空であることが肉眼で見るための必須条件。観賞出発時に曇っているからといってあきらめず、雲がいつか晴れると信じて寒空の下、延々と待つ根気強さもまた大切である。

 
オーロラを見に行こうと思い立ったら、まずは北米か北欧のどちらかに絞り、自分の好みに合った最適な行き先を検討してみよう。写真撮影を狙うのであれば、三脚や結露対策も忘れないように。シャッタースピードを10秒以上、ISO感度を400以上に設定するのがポイントだ。

 

“とにかくオーロラを見たい!”派は北米へ

・気温は-30℃前後と寒さは厳しいが、北欧よりも晴天率が高いため、オーロラに出合える確率も高い
・観賞スポットが町から車で30分以上離れているため、ツアー参加がおすすめ
・空き時間は犬ぞりなどのスノーアクティビティーを楽しめる
・観賞チャンスが午後10時以降と比較的遅めのスタート
・オーロラ専用の施設で観賞する

 

“街並み・観光も楽しみたい”派は北欧へ

・オーロラが出れば街中からも観賞可能なため、気軽に自分のペースで挑戦できる
・北米ほど気温は寒くない
・日中は北欧の街を散策、フィンランドにはサンタクロースが住む村もある
・観賞チャンスは午後7時以降と時間帯が早め
・ホテルの敷地内や徒歩圏内で観測ができる

 

2. 宙に舞う儚き宝石の粒

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煌めくダイヤモンドダストの繊細な美

窓の外に広がる一面雪に覆われた白銀の世界。晴れた日は特に白い雪が空の青に映え、それだけでも美しく感じられる。極寒と言われるほど寒さの厳しい地帯では、神秘的な自然現象を目の当たりにすることも期待できる。そのひとつが「ダイヤモンドダスト」だ。大気中の水蒸気が急速に冷やされて極小の氷の結晶となり、日光に反射してキラキラと、まるで妖精が舞い降りてくるかのような光景が生み出される。快晴で-10℃以下、さらに無風で湿度があることなど、いくつかの気象条件が揃わないと出現しないため、なかなか簡単には巡りあえない。

 

北海道は内陸部が狙い目

国内でダイヤモンドダストに出合うには、北海道がおすすめ。だが、札幌で見たことはないので、まずは然るべき場所へと出向く必要がある。北海道内でもダイヤモンドダストに出合える確率が高いのは、内陸部の旭川や美瑛、幌加内町(ほろかないちょう)、十勝地方のほか、摩周湖や屈斜路湖のある弟子屈町(てしかがちょう)。1〜2月の早朝が狙い時なので、前日から宿泊して備えてみるとよいだろう。

 

3. 稀有な自然現象を探しに

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霧立ち込める「けあらし」

-15℃前後と冷え込みの厳しい朝、霧が湯気のように海面に立ち上る幻想的な「けあらし」は、北海道の方言であり、留萌(るもい)や函館、釧路などの凍結しない海で見られる自然現象だ。

 
荒天のような言葉の響きとは裏腹に、実は晴天と緩やかな風、というおだやかな天気が基本条件。内陸や山間部で冷え込んだ空気が海上へと流れ込み、比較的温かい海水に触れて蒸発する際に発生する。日が昇ると空気が温められて霧は消滅してしまうので、チャンスは早朝のみ。本州でも富山県の氷見などで見られることがあり、朝焼けに染まった空をより味わい深く演出してくれる。

 

数年に一度の奇跡「御神渡り」

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1〜2月に全面結氷する長野県の諏訪湖。湖上の氷が寒暖差により膨張と収縮を繰り返すと亀裂が入り始め、轟音とともにせり上がって高さ30~180 cm、長さ数kmにも及ぶ氷の山脈を作り出す。自然が織りなすこの神秘的な氷の芸術は、諏訪大社上社の男神が対岸の下社の女神のもとへと渡る恋の道、「御神渡り(おみわたり)」の道筋として、古くから神事の対象とされてきた。

 
出現すれば数日から数週間とどまり、そのせり上がり具合によってその年の豊作や世相が占われるのだが、毎冬必ず起こるわけではなく、1990年以降、観測されたのは9回のみ。さらに本州で見られるのはこの諏訪湖だけで、北海道でも全土ではなく道東の屈斜路湖で観測されるなど地域も限定された、とても希少な現象なのである。

 

まとめ

氷点下が生み出す幻想的な冬の芸術と出合うには、厳しい冷え込みの中、祈るような気持ちで粘り強く待つという覚悟も必要である。然るべき時と場所を選ぶことが、出合う確率を高められるポイントだ。

 
出合えないことも多いことから天候に合わせて現地で臨機応変に計画を立てられるよう、ほかの目的や楽しみも用意して行くとよいだろう。もしも運よく出合えたら、間違いなく忘れられない冬旅になるはずだ。
 
 

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