ゴールデンウィークの抜けるような青空の中を気持ちよさそうに泳ぐ鯉のぼり。初夏の風を連想させる風物詩だが、こどもたちもそのように伸び伸びと育ってほしい、そんな思いを込めてお祝いするのが5月5日の「こどもの日」だ。
そして同時に、古来「端午の節句」と呼ばれる日でもある。何がどう違うの?と疑問に思う方も多いのでは。その意味や由来を知って、こどもの日を最高のイベントにしよう。
この記事では、
・こどもの日の意味や由来
・端午の節句について
・こどもの日に食べるもの
・おすすめの過ごし方や各地のイベント
などを詳しく紹介する。
目次
こどもの日とは?
5月5日は「こどもの日」。国民の祝日だ。ゴールデンウィークの終盤とも重なる。国民の祝日に関する法律では「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」日とある。こどもの健やかな成長を祈るのはもちろん、母親を慈しむ日でもあることは、意外に知られていないのでは?
こどもの日は、日本だけでなく世界の国や地域にも存在するが、日程や過ごし方はさまざまだ。例えば「こどもの福祉世界会議」が制定した「国際こどもの日」は6月1日で、世界の国や地域の約2割程度が、この日を「こどもの日」としている。
また、1954年に国連が定めた「世界こどもの日」は11月20日。国連は加盟国に「こどもの日」を制定するように勧告しているが、いつにするかはそれぞれの国、地域に委ねられていて、その内容も多種多様。いずれもこどもを主役にしたイベントやお祭りなどが盛大に行われることには違いない。
ちなみに、世界でいち早く「こどもの日」を制定したのはトルコだといわれている。トルコ共和国初代大統領のケマル・アタテュルクが4月23日の「国民主権の日」を「こどもの日」とすることを提唱し、現在でも赤い民族衣装を着た子どもたちがパレードを行うなど、大変な盛り上がりを見せるのだとか。
日本では古来、端午の節句に男子の健やかな成長を祈願する風習があった。端午の「端」には、「初め」という意味があり、5月の初めの午(うま)の日が端午の節句とされていたが、後に「午=五」(読みが同じ)ということで5月5日に定着していった。そして1948年の祝日法公布によって、この日が、男子だけでなくすべてのこどもの幸福をはかる「こどもの日」に制定された。ちなみに、5月5日は少数派で、日本と韓国だけとのこと。
もとになったのは「端午の節句」
前述のとおり、端午の節句としてお祝いされていた5月5日がこどもの日になったわけだが、そもそも「端午の節句」の意味や由来をもっと深く知りたいところだ。
「節句」とは季節の節目を表す日のことで、中国の陰陽五行説をもととし、日本では奈良時代ごろに伝来し定着したといわれている。主に宮廷において季節の節目に「節会(せちえ)」という伝統的な行事が行われたが、日本の稲作文化や信仰とうまく結びつき、庶民の季節行事としても深く根付いていった。
もともとは多くの節句があったようだが、時代とともに数を減らし、江戸時代に幕府が公的な祝日と定めたのは以下の五節句。
・1月7日 人日(じんじつ) 七草の節句
・3月3日 上巳(じょうし) 桃の節句、ひな祭り
・5月5日 端午(たんご) 菖蒲の節句
・7月7日 七夕(たなばた) 星の祭り
・9月9日 重陽(ちょうよう)菊の節句
これらは行事としては現在でも祝われているが、国民の祝日とされているのは「こどもの日」となった「端午の節句」のみだ。節句は節供ともいい、その季節の旬の供物を神様に捧げ、祈り、そのお下がりを皆で食するというのが本来の祝い方だという。
このように、五節句はその季節の草や木などと関連づけられていることがわかる。よって、5月5日は端午の節句ではあるが、「菖蒲の節句」でもあるのだ。
こどもの日には菖蒲湯を準備するという方も多いだろう。端午の節句に、菖蒲などの薬草を用いることは中国の古い文献にも記されている。これは現代でも行われていて、その束を玄関などに飾り、厄払いをするというものだ。
日本では宮廷や貴族社会において、薬草を丸め、飾って使う薬玉を送り合う習慣があった。さらに、平安時代には菖蒲の葉を枕の下に敷いて寝ることで邪気を払うということもあった。菖蒲には特別な力があり、神様がそれを目印にしていると信じられていたようだ。
武家が台頭してくる鎌倉時代になると、「菖蒲」と「尚武(武道、軍事を尊ぶこと)」の読みが同一であること、また、菖蒲の葉が刀の切っ先を連想させることから、端午の節句は男子の節句とされた。よろい、かぶと、鯉のぼりや五月人形などを飾り、男子の成長と健康、一族の繁栄を願う重要な行事になったという。徳川幕府の時代になると、5月5日が式日として定められ、式服を着た大名や旗本が江戸城に出向き、将軍にお祝いを奉じる儀式があった。
こどもの日に食べたい食べ物
端午の節句の行事食の代表がかしわ餅やちまき。地域による違いなどもあるようだ。詳しく見てみよう。
かしわ餅
古くから、食べ物を包んだりする葉などを総称し「かしわ」と呼んでいたという。カシワの葉も、かつては食べ物を包んだり、料理を盛る皿代わりとして使われていた。ほのかな芳香と、冬に落葉しないことから、日本では神が宿る縁起がよい木として知られ、家紋などに使われることも多い。若葉が出ないと古い葉が落ちないので「後継者が絶えない、子孫繁栄」という縁起にもよる。なお、かしわ餅を食べるのは日本だけの風習。
かしわ餅自体は江戸時代ごろから、庶民の間で食されていたようだ。東海道の宿場には、かしわ餅が名物の茶店があったという記録があるという。餅は通常は白だが、近頃はよもぎ、桜など、さまざまなバリエーションがある。餡は小豆のこし餡またはつぶ餡が基本だが、みそ餡なども。また、西日本ではカシワの葉ではなく、サルトリイバラという葉で包み、かしわ餅とは呼ばない地域もある。静岡では通常の柏餅の10個分ほどもある「大柏餅」というのがあるそう。ちなみに、桜餅の葉っぱは食べられるが、カシワの葉っぱは食べられないのでご注意。
ちまき
中国戦国時代の高名な詩人、屈原(くつげん)が陰謀に遭い、川に身を投げた日が5月5日。その死を悼むため、人々は命日に竹筒に入れた米を川に投げ入れて弔っていた。しかしある日屈原の霊が現れ、せっかくの供物を悪い龍に食べられてしまうため、米をせんだんの葉で包み、5色の糸で縛ってほしいと伝えたとか。そうして生まれたのが「ちまき」だといわれている。中国では5月5日の節句に供物としてちまきを作り、親戚や知人に配る習わしがある。
東日本でちまきと言えば、この伝承のように、その中身はおこわを思い浮かべる方が多いだろう。しかし、主に西日本で端午の節句に食されるちまきは、もち米や米粉などを使用し、モチっとした食感の甘い団子をササで包んだもの。写真のように細長い円錐形をしている。京都には16代続くちまきの名店「御ちまき司 川端道喜」がある。なかでも水仙ちまきが有名で、一度は食してみたい銘菓だ。
べこ餅
白と黒または茶色の2色が配された木の葉型の郷土菓子で、主に北海道から東北にかけ、端午の節句に食されることが多い。もともとは冠婚葬祭などで供されるハレの日のお菓子だという。その名の由来については諸説ある。2色の配色がホルスタイン牛を思わせることから「べこ」になった、米粉と砂糖を主原料としているため「べいこ」餅と呼ばれたという説など。山形の「クジラ餅」が進化したという説もあり、道南地域の一部では「クジラ餅」と呼ばれることも。
あくまき
鹿児島発祥の餅菓子で、ちまきと呼ぶこともあるとか。薩摩藩の兵士が戦場に赴く際に携える、日持ちのする食料として作ったのが始まりとされている。西郷隆盛も西南戦争に持参したという。鹿児島県はもちろんだが、宮崎県、熊本県など、南九州地域で端午の節句に食される。
あくにつけた餅米を、孟宗竹(もうそうちく)の皮で包み、ひもで縛った後さらにあくで数時間煮込んで作る。皮を剥がして食べやすい大きさに切り、きなこや黒砂糖など、好みのものをまぶしていただく。砂糖じょうゆをかけるのもオツだとか。しっかりとした食感で、食べ応えがある。あくに含まれるアルカリ成分が餅米の繊維を柔らかくし、また雑菌の繁殖を抑え、日持ちをよくするという。
カツオ
カツオは「勝男」と字を当てることもでき、昔から縁起のよい魚の一つ。加えて太平洋を北上するこの時期は「初鰹」の旬で、江戸時代には庶民には手が出ないほど高価な食材だったとか。もちろん、育ち盛りのこどもに必要な栄養素もたっぷりなので、ぜひこどもの日のメニューに加えてほしい食材だ。
ケーキ
伝統的な和菓子もいいが、ケーキもこどもが喜ぶお菓子の筆頭だろう。近年では多くの洋菓子店や洋菓子メーカーが、この時期に鯉のぼりやかぶとをモチーフにした「こどもの日ケーキ」を発売している。写真映え効果も狙えるので、気になる方は早めの予約を。もちろん、こどもと一緒に一から手作りしたり、デコレーションを手伝ってもらったりするのも、最高の思い出になることだろう。
こどもの日の過ごし方
由来や歴史などは復習したし、後はこどもの日当日を迎えるだけ。さて、何をするべきなのか?準備しておきたい飾り物や当日の過ごし方などについて説明する。
鯉のぼりを飾る
端午の節句の飾りには、内飾りと外飾りがあり、それぞれ目的も違う。鯉のぼりは、本来は外飾りで屋外に立てる飾り物だ。江戸時代、将軍家に男子が誕生すると、城の玄関前に馬印やのぼりが立てられお祝いしたことから、それが鯉のぼりとして発展し庶民に広がっていったという。
鯉のぼりの一番上にある5色の吹き流しは、武家ののぼりの名残り。跡取り息子の誕生を神様や地域に知らせる、という役割を持つ。ちなみに、この5色は季節を表し「青」は春、「赤」は夏、「白」は秋、「黒」は冬、「黄」が土用。この5つの要素が邪気を払ってくれると信じられたという。
吹き流しの上に、矢車を付ける場合もあるが、これは吹き流しをより目立たせ、カラカラという音が邪気を払うものとされた。やがて武家だけでなく、庶民の間でも中国の伝承をもとにした鯉のぼりが飾られるように。故事「登竜門」のもとにもなっている「黄河の激流にあらがい力強く滝を登っていく鯉が、やがては龍になった」という鯉の滝登りの伝承による。
昭和6年に発表された童謡「鯉のぼり」。「大きい真鯉はお父さん、小さい緋鯉はこどもたち」と歌われている。もともとの鯉のぼりは、この2匹だけだったとか。さらに鯉のぼりが始まった江戸時代にさかのぼると、真鯉を1匹だけ飾るのが主流だったよう。現在は少し事情が変わり、吹き流し、真鯉(お父さん)、緋鯉(お母さん)、子鯉(こどもたち)というように、家族全体を表すのが一般的だ。
さて、現代の住宅事情では、庭などに大がかりな鯉のぼりを立てるのは難しいという家庭も多いだろう。そんな事情を察してか、最近ではベランダタイプや部屋の中に飾れる卓上タイプ、天井から吊るすモビールタイプやウォールステッカータイプなど、さまざまな鯉のぼりが販売されている。自宅のスペースに合うものを飾ってみよう。もちろん、こどもと一緒に折り紙などで作ってみるのも楽しい。手作りのかわいい鯉のぼりと共に過ごすこどもの日は、家族の大切な思い出になることだろう。
五月人形やかぶとを飾る
内飾りの五月人形、かぶとは、男の子の強くたくましい成長を願い端午の節句に飾る。人形にはこども大将、鐘馗(しょうき)、金太郎などがあり、ガラスケースに入れて飾る場合が多い。主に人気なのは、甲冑(かっちゅう)と具足をセットにしたよろい飾り。甲冑の頭にかぶるかぶとだけをしつらえたかぶと飾りもある。かぶと、よろいには歴史上の武将になぞらえたものなども。武家が台頭した時代には、よろいかぶとは自分の身を守ってくれる神聖なものとして扱われた。神社へ奉納したり、厄払いとして門戸に飾ることもあったという。また、梅雨入り前にかぶとや弓を虫干しする習慣があり、それが節句の飾りとして発展したという説も。できれば、鯉のぼりとセットで飾りたい。
菖蒲湯に入る
古代中国では、雨期を迎えるこの時期、病気や疫災が多くなることから、邪気を払うためにさまざまな場面で菖蒲を使用した。また、剣の形をした葉は、長いもので4〜5尺に及ぶことから、長寿の願いも込められる。独特の強い香りが特徴で、魔よけとして軒下に挿したりした。また、湯に入れて浸かったり、身に着けたり、枕の下に敷いて寝たり、お酒に浸して飲んだり。菖蒲には「テルペン」「オイゲノール」といった香り成分が含まれ、これらは血行促進や疲労回復に効果があるという。こどもの日には、ぜひそのようないわれを語りつつ、こどもと一緒に菖蒲湯に浸かってみてほしい。
家族仲よく楽しく過ごす
食べ物や飾りなどの準備をしたら、後は家族みんなで楽しい時間を過ごすだけ!かしわ餅やちまきを食べながら、折り紙などで鯉のぼりやかぶとを作ったりして、楽しんでみてはいかがだろうか。お祝いなので、両親や親しい人も招いて賑やかに。特に初節句の場合は、盛大にお祝いしたいところだ。
また、ゴールデンウィークも終盤を迎えたところ、せっかくなので家族揃って「こどもの日」関連のイベントに出かけてみるのも手。次の項では、ぜひ出かけてみたい全国のおすすめスポットを紹介する。
こどもの日ならでは!全国の鯉のぼりスポット5選
屋根より高い鯉のぼり~♪ 自宅に立てるのが難しければ、家族全員で見に行こう。全国のイベント情報を紹介するので、参考にしてみてほしい。
※今年の実施状況などは、各イベントのWebサイトでご確認ください。
こいのぼりの里まつり(群馬県館林市)
群馬県の館林市では、桜とツツジが見頃になる3月下旬から5月中旬まで、鶴生田川、近藤沼公園、旧つつじが岡パークイン、茂林寺川、多々良沼の市内5カ所で鯉のぼりの掲揚イベントを行っている。その数は大小あわせて4,000匹以上。2005年には5,283匹でギネス認定を受けたという。夜は幻想的なライトアップも。
館林市観光協会
URL:https://www.utyututuji.jp/koyomi-spring.html
加須市民平和祭(埼玉県加須市)
明治時代に鯉のぼり生産が始まり、戦前には生産量が日本一だった加須市。そのような由縁で、全長100mのジャンボこいのぼりを利根川の河川敷で遊泳させるイベントを行っている。また、周辺ではフリーマーケットや特産物の販売、利根川の渡しなど、大人もこどもも嬉しいイベントがたくさん。
加須市
URL:https://www.city.kazo.lg.jp
こいのぼりフェスタ1000(大阪府高槻市)
子どもたちが健やかに育つことを願い、高槻の都市シンボルである芥川河川にある芥川桜堤公園で、約1,000匹の鯉のぼりを掲揚する。市民からの寄付を中心に、園児たちの手作りやオリジナルの名前入り鯉のぼりなどが大空に舞う姿は圧巻。家族や地域の人たちと共に楽しめる。
こいのぼりフェスタ1000
URL:https://koinoborifesta1000.jimdofree.com
材木岩公園の鯉のぼりの吹き流し(宮城県白石市)
宮城県白石市を流れる白石川には、国の天然記念物である柱状節理が見られる材木岩公園がある。そこで毎年行われる「春の検断屋敷まつり」では、その壮大なスケールの柱状節理をバックに、全国から送られた約800匹の鯉のぼりの吹き流しが行われる。
宮城まるごと探訪(宮城県観光連盟)
URL:https://www.miyagi-kankou.or.jp/kakikomi/detail.php?id=5679
杖立温泉 鯉のぼり祭り(熊本県阿蘇郡)
毎年杖立温泉で開催される鯉のぼり祭り。温泉街を流れる杖立川に、3,500匹ほどの鯉のぼりが優雅に泳ぐ。川をまたいで渡す鯉のぼりイベントは今では全国で見られるが、ここ杖立が発祥といわれているとか。1980年に始まり、40年以上も続く。温泉とともに幻想的な風景を満喫したい。
杖立温泉
URL:https://tsuetate-onsen.com
準備万端で、最高のこどもの日に!
鯉のぼり、かしわ餅、菖蒲湯……長い間受け継がれてきた一つ一つの事柄には、深い意味があった。日本の大切な文化として、後世にも伝えていきたいものだ。そして、世界中すべてのこどもたちが、幸せに成長していけるように。そんな願いを込め、家族全員でこの日を楽しく迎えよう。
関連記事