11月最初の祝日は、「文化の日」である。美術館や博物館などの文化関連施設が無料開放されることは知っていても、なぜ11月3日が文化の日とされているのか、知らない人もいるのではないだろうか。
そこで今回は、文化の日の由来と、文化の日にちなんでユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産に登録されている美術館を紹介する。
目次
文化の日の由来
文化の日は、昭和23(1948)年に定められ、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」ことを趣旨としている。先立って昭和21(1946)年11月3日に、新憲法(日本国憲法)が公布されたが、これに基づき、文化の日の意義として平和と自由、文化が強調されている。
11月3日は明治節であった
もともと11月3日は明治天皇の誕生日で、「明治節」と呼ばれる日であった。これは大正14(1925)年に、明治天皇の偉業を永遠に伝えていくことを目的として、明治天皇の誕生日を記念日にする請願運動が行われたことを受け、昭和2(1927)年に制定されたものだ。戦後は廃止され、国民の祝日として文化の日となった。
世界遺産に登録されている美術館
文化の日らしく、文化や芸術に触れられる世界各国と日本の美術館を見ていこう。以下では、特に文化的価値の高い場所として考えられ、それ自体が世界遺産に指定されている美術館のうち5館をピックアップした。
ルーヴル美術館(フランス)
エッフェル塔やノートルダム大聖堂などを含む「パリのセーヌ河岸」は、1991年に世界遺産に登録されている。そのうち、ルーヴル美術館は、6万㎡以上の広さを持つ展示スペースに約3万5000点もの作品を収蔵。建物は、フィリップ2世が1190年ごろにパリを守る要塞として建造した城壁が起源だ。その後さまざまな理由により要塞から宮殿へと変わり、幾度もの改築や増築を重ねて現在の姿に至る。
そんなルーヴル美術館では、中世から1848年までの西洋美術作品や、それらに影響を与えた古代文明やイスラム美術の作品を8つに分類して展示。絵画であれば、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、レンブラント、ルーベンス、ドラクロワら錚々たる画家たちの作品が集結している。
混雑を避けるには、午前中の時間を有効に使いたい。まず必見なのは、展示のために4年かけて改装された「国家の間」に並ぶ『モナ・リザ』と『カナの婚礼』の2作。最も有名なのが『モナ・リザ』で、最も大きな作品が『カナの婚礼』である。彫刻であれば、『サモトラケのニケ』や『アフロディーテ(通称「ミロのヴィーナス」)』も押さえておきたい。それぞれ頭部と両腕、両腕と左足が欠損しているが、それゆえに、想像力を搔き立てられ、より美しく感じさせる。
そのほか、絵画『民衆を導く自由の女神』や、彫刻『バビロン王のハンムラビ法典』などもあり、世界史を凝縮したような芸術作品を鑑賞することができる。
ルーヴル美術館
住所:Musée du Louvre, 75058 Paris
URL: www.louvre.fr/jp/
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、公式ウェブサイトで来場時間を予約する必要あり。
エルミタージュ美術館(ロシア)
エルミタージュ美術館は、ロシアの古都サンクトペテルブルクに立地。この地域は、1990年に「サンクト・ペテルブルク歴史地区と関連建造物群」として世界遺産に登録されている。広大な土地を活かして、約300万点にもおよぶ作品を所蔵している。
館内最大の建物である「冬宮殿」では、外観だけでなく、大理石と金箔で彩られた階段も美しい。そのほか、壁全体が黄金の金箔で覆われた「黄金の客間」など、建物だけでも魅力は十分。収蔵作品としては、レオナルド・ダ・ヴィンチ『ブノワの聖母』や『リッタの聖母』、ルノワール『ジャンヌ・サマリーの肖像』、カラヴァッジョの『リュートを弾く若者』などの名作が目白押し。
すべて鑑賞してまわると20km以上にもなるといわれるので、事前に情報を収集し、スケジュールを立ててから訪れるのが望ましい。
エルミタージュ美術館
住所:2, Palace Square, St Petersburg, 190000
URL:www.hermitagemuseum.org/
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一度に50名以上の入場は不可。
スペイン抽象美術館(スペイン)
もともとは、イベリア半島を支配したイスラム教徒によって、要塞として築かれた断崖上の町・クエンカ。この場所は、「歴史的城塞都市クエンカ」として1996年に世界遺産に登録。
崖の上からせり出すように建っていて、見ているだけで足がすくみそうな「宙吊りの家」が知られており、この建造物の中が美術館になっている。その名は、「スペイン抽象美術館」。ミロやアントニ・タピエス、エドゥアルド・チリーダらのスペインの芸術家の作品を収蔵する。特に、1950年代から1960年代ごろの作品を中心としており、前衛的なアートを楽しめる。
美術鑑賞はもちろんのこと、建物のバルコニーから一望できるクエンカの町並みも素晴らしい。高いところが苦手でなければ、浮遊感を楽しんでみるのもいいだろう。
スペイン抽象美術館
住所:Casas Colgadas, 16001 Cuenca
URL:www.march.es/arte/cuenca/
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(アメリカ合衆国)
ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエと並び「近代建築の三大巨匠」と称されるフランク・ロイド・ライト。2019年にライトの代表的な8建築が世界遺産に登録された。
その一つが、ニューヨークにあるソロモン・R・グッゲンハイム美術館。「かたつむりの殻」と呼ばれる通り、白く渦を巻いたような外観が特徴となっている。建物内部は吹き抜けとなっており、天井から自然光が降り注ぎ、巨大な螺旋の通路が緩やかに続いている。その傾斜した通路沿いに、美術品収集家であったグッゲンハイムとほか数人のコレクターが集めた作品が展示されている。
作品は、印象派・キュビスム・シュルレアリスム・近代アートなどが主な展示内容だ。建物自体を目的に訪れる人も少なくない。「有機的建築」と称し、自然と調和する建物を造ることにこだわったライトの建築思想に触れられる希少な場所である。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館
住所:1071 5th Ave, New York, NY Between 88th & 89th St.
URL:www.guggenheim.org/
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、閉館中(2020年7月30日現在)
国立西洋美術館(日本)
東京都の上野恩賜公園内にある国立西洋美術館は、前述した建築家のル・コルビュジエによる建造物である。2016年、「ル・コルビュジエの建築作品 -近代建築運動への顕著な貢献-」として世界遺産に登録された17作品のうちの1棟が、こちらの国立西洋美術館である。
この建物は、コルビュジエが唯一日本に残した建築作品であり、「無限発展美術館」という思想を体現している。コルビュジエらしいピロティ(1階部分が柱のみの外構)や自由な立面・平面の使い方などが特徴的で目を引く。また、美しい植物が品よく植えられた中庭も来館者を癒やしてくれる。ロダンを中心としたフランス近代彫刻も必見だ。
常設展での展示品は、実業家・松方幸次郎がヨーロッパで集めたコレクションだ。所有していたフランス政府から返還されたものが中心となっている。クロード・モネの『睡蓮』など、希少な作品を多く所蔵している。
国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7番7号
URL:www.nmwa.go.jp/
※企画展示については、日時指定制の場合あり。詳しくは公式ホームページ要確認。
展示品だけでなく建物の美も愛でる
上記で紹介した美術館は、建物自体が世界遺産に登録されている。展示される美術作品だけでなく、建築美も楽しむことができるものばかりだ。
新型コロナウイルス感染症拡大により、2020年上半期は多くの美術館が閉鎖された。現在その多くは再開されているが、のびのびと文化が育ち、人々がそれを楽しむには平穏な日々が戻ってこそと思い知らされる。
今こそ「自由と平和を愛し、文化をすすめる」という文化の日の趣旨を思い出し、その根底にある日本国憲法の「平和」「自由」「文化」の3つのキーワードを心にとどめておきたい。
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