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10月14日「鉄道の日」に、人類の大発明「鉄道」を考える

10月14日は「鉄道の日」。公共交通機関として身近な存在である鉄道に親しみを感じている人は少なくないだろう。
また、鉄道趣味は奥深く、車両や駅舎を撮影する「撮り鉄」や、乗って楽しむ「乗り鉄」、鉄道模型を愛好する「模型鉄」など、鉄道ファンはさまざまに細分化されている。ここでは鉄道の日にちなみ、国内外の鉄道博物館を中心に鉄道の話題をお届けしたい。

 

10月14日が鉄道の日になった経緯

日本で最初の鉄道は、どの区間かご存じだろうか。それは、明治5(1872)年に開通した新橋〜横浜間の約29kmの区間である。鉄道建設に当たり、明治政府はイギリスから技術や資金、資材の支援を受けた。

 
鉄道敷設といっても、ただ線路を敷いて終わるものではなく、海の埋め立てや堤の建造なども含む大規模な事業として進められたのである。

 
まず品川~横浜間を仮開業した後、川崎、神奈川(現在の横浜~東神奈川間)の両駅が開業、その後新橋へと進められ、全駅開業となったのが1872年10月14日のことである。以来、鉄道は日本の経済活動の要となり、速く定時的に大量の貨物・人を輸送できる乗り物として普及した。

 
1922年10月14日に「鉄道記念日」という名称で記念日が制定されたが、1994年に運輸省(現・国土交通省)の提案により、10月14日を「鉄道の日」と改称した。毎年、全国各地の鉄道事業者などにより、さまざまなイベントが催される。

 

一度は行ってみたい世界の鉄道博物館

ここまで日本の鉄道の日を見てきたが、世界に目を転じてみよう。鉄道発祥の地であるイギリスをはじめ世界にはさまざまな鉄道博物館があり、鉄道に関する歴史や技術などを多様な角度から学べる。もちろん、鉄道に興味のない人にとっても多くの学びがあるはずだ。

 

国立鉄道博物館(イギリス)

国立鉄道博物館

 
イギリスの「国立鉄道博物館」は、はるかローマ時代までさかのぼるほどの歴史ある街・ヨークに立地。

 
注目は、蒸気機関車として世界最速を誇った「マラード号」。巨大で丸みのある美しいフォルム、艶のある深い青色の塗装には思わず目を引かれてしまう。

 
このマラード号以外にも、重要な所蔵品がたくさん。歴代のイギリスの蒸気機関車や、20世紀初頭の通勤列車から女王陛下のお召し列車までが公開されている。流線型のカバーや黒い質感が特徴的な「ウィンストン・チャーチル号」や、豪華なサザーランド公爵の専用車両なども必見だ。ちなみに、JR西日本寄贈の初代新幹線0系も誇らしげな姿を見せてくれる。

 
車両だけでなく、機関車の内部構造や切符展示も観覧でき、見飽きることがない。

 

国立鉄道博物館(National Railway Museum)
住所:Leeman Road, York YO26 4XJ, England
URL:www.railwaymuseum.org.uk/

 

シテ・デュ・トラン(フランス)

シテ・デュ・トラン

 
「シテ・デュ・トラン」はフランス語で「電車の街」を意味し、広大な敷地面積を誇るフランス最大の鉄道博物館だ。

 
フランスといえば、高速鉄道のTGV(テージェーヴェー)。最高時速320kmで走行し、日本の新幹線とはまた違った塗装や形状が特徴的だ。

 
それから、特筆すべきはパリ市内を走るメトロの存在。1900年、パリ万国博覧会の開催にあわせてパリ・メトロポリタン鉄道会社が地下鉄の運行を開業したことから、世界中で「メトロ」が地下鉄を指す用語として定着した。

 
この「メトロ」を走る一部の路線の車両は、タイヤがゴム製なのが特徴。ゴムタイヤには走行音を低減し、スムーズな加速ができるなどの利点があるとされる。フランスのタイヤメーカーミシュラン社が、ゴムタイヤでレールを走る列車を開発したという歴史にも注目したい。

 
フランス鉄道博物館では、こうしたTGVの実際の車両や実物のゴムタイヤなどを展示。アガサ・クリスティのミステリー『オリエント急行の殺人』などで知られるオリエント急行の食堂車や寝台車も見られる。蒸気機関車やアール・デコがテーマの皇帝や大統領専用車も必見。蒸気機関の脱線転覆シーンを再現した展示も見逃せない。

 
全体では、山を走る列車、戦争時代の設備、列車に関わる労働者についての展示などさまざまな側面から学習ができるのも特徴だ。

 

シテ・デュ・トラン(Cité du Train)
住所:2 rue Alfred de Glehn 68200 Mulhouse
URL:https://en.citedutrain.com/decouvrir

 

ボルチモア&オハイオ鉄道博物館(アメリカ合衆国)

ボルチモア&オハイオ鉄道博物館

 
「ボルチモア&オハイオ鉄道」は、アメリカ合衆国で最初に開通した旅客鉄道路線の名前である。その発祥の地に立地するアメリカ合衆国最古の鉄道関連施設として、貴重なコレクションを所蔵。1828年に行われた博物館の起工式の際には、アメリカ独立宣言に署名した人物のなかで唯一存命していた、元上院議員のチャールズ・キャロル・オブ・カロルトンが礎石を置いたという。

 
敷地面積は、約16haと東京ドーム約3.5個分と広大で、そのなかに歴史的建造物が5棟並び、約200もの車両と約2.4kmの長さを持つ線路が鎮座する。この線路は、ボルチモア・オハイオ鉄道が開通したときから保存されている希少なもの。4月から12月の木曜日から日曜日と1月の週末なら体験乗車ができる。

 
博物館では、歴代の機関車をずらりと並ぶのを眺めることができるが、なんといっても見所は世界に2台しか現存しない蒸気機関車の「アレゲニー号」のうちの1台。アレゲニー号は世界最大級の蒸気機関車。使い古されて黒々とした巨軀が圧倒的な存在感を見せつける。

 
かつて使われていた標識や食堂車の食器などが見るものを楽しませてくれる。子ども向けのメリーゴーラウンドやミニ遊園地なども整備され、家族連れでも楽しめる工夫もされている。

 
そのほか、敷地内にある国定歴史建造物に指定されている「マウント・クレア工場」の見学がお薦め。かつて鉄道が製造されていた現場を間近に見学することができる。

 

ボルチモア&オハイオ鉄道博物館(Baltimore & Ohio Railroad Museum)
住所:901 West Pratt Street Baltimore, MD 21223
URL:www.borail.org/

 

鉄道博物館(日本)

鉄道博物館

 
最後に「てっぱく」こと、国内最大の「鉄道博物館」を紹介したい。同博物館は、埼玉県さいたま市に立地。所蔵車両数は41両と国外の博物館に比べてそれほど多くはないが、蒸気機関車や電気機関車から客車、貨車、御料車など多様な車両が並ぶユニークな展示が好評だ。

 
例えば、客車コーナーに展示されている「開拓使号客車(コトク5010形)」は、北海道の幌内鉄道開業時にアメリカから輸入された貴重なもの。当時の開拓使長官が使用した客車は、アメリカ式のボギー客車。黄色の塗装と特徴的な屋根が愛らしく、鉄道に興味のない人でも、そのデザインに魅力を感じるはずだ。

 
そのほか、1891年製造の「2号御料車(初代)」や、1922年製造の「10号御料車」(外国賓客用御料車)「キハ11形気動車」などの人気車両も展示されている。

 
子ども連れなら、カーブによる減速などの運転シーンを体験できる「ミニ運転列車」や、絵本や外国の鉄道関連書を展示する「キッズライブラリー」、自分だけの駅弁を作れて遊べる「おままごとえきべん」などが楽しい。

 

鉄道博物館
住所:埼玉県さいたま市大宮区大成町3丁目47番
URL:www.railway-museum.jp/

 

鉄道博物館を通じて、鉄道の歴史を学ぼう

世界で初めての実用的な蒸気機関車は、イギリスのリバプール・マンチェスター鉄道。文政13年(1830)のことである。それから190年も経過した現在でも、当時使用されていた車両が文化史料として保存されていることに感謝したい。

 
鉄道は今や、私たちの生活になくてはならない存在となっているが、身近すぎて偉大なる発明であったことを忘れがちである。鉄道の日をきっかけに、普段は何気なく利用している鉄道に思いを巡らせてみてはいかがだろう。新型コロナウイルス感染症が収束したら、上記で紹介した各国の鉄道博物館に足を運ぶのもよい。

 
鉄道の歴史は、その国の歴史と密接な関係にあり、展示内容が国ごとに異なるのも興味深い点だ。将来の海外旅行の際には、その国の鉄道史にも興味を向けると新しい発見があるはずだ。

 
 

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