世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。予断を許さない状況は続きそうだが、こんなときこそ、事態が収束したら行きたい場所を想像しつつ、情報収集や旅の計画を楽しもう。
海外旅行なら、まだ行ったことのない世界遺産はどうだろう。世界遺産は年々登録数が増加しているが、初心に帰って世界遺産第1号をおさらいしつつ、特にお薦めしたい4つのスポットを紹介する。
目次
1980年から続く「世界観光の日」
毎年9月27日は、「世界観光の日(World Tourism Day)」。日本も加盟する国連世界観光機関(UNWTO)により、1980年から定められた。この日取りは、UNWTOの「世界観光機関憲章」が採択されたのが1970年9月27日であったことに由来する。
また、この時期が北半球ではハイシーズンの終わり、南半球ではシーズンの始まりに当たるという絶好のタイミングであることも関係しているという。世界観光の日は年ごとにテーマが設定され、それに沿って各地で観光推進のためのイベントなどが開催される。
2019年の世界観光の日には、大ヒットスマホゲーム「Pokémon GO」がUNWTOと提携してイベントを実施。地域限定ポケモンや宿敵同士のポケモンが色違いで出現するなど、普段とは違う特別感が多くのプレイヤーを興奮させた。
2021年のテーマは「包括的成長のための観光(Tourism for inclusive growth)」。新型コロナウイルス感染症の影響で低迷を続ける世界経済の復興に、観光業の再開が欠かせないと考え、このテーマが掲げられている。
意外と知らない世界遺産のこと
世界観光の日にちなみ、出版物やテレビ番組などでよく見聞きする世界遺産についておさらいしよう。旅行代理店では世界遺産を巡るツアー商品が多数販売されたり、NPO法人世界遺産アカデミーが主催する「世界遺産検定」が行われたりと、一般的に世界遺産は広く知られている。ただその反面、その目的や意義について正しく認識できていないという人もいるだろう。
まず、定義から。世界遺産とは、1972年の第17回国際連合教育科学文化機関(UNESCO)総会で採択された世界遺産条約(正式名称:「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」)に基づき、「世界遺産リスト」に登録された遺産のことを指す。
世界遺産は大きく3種類に分けられる。記念物や建造物群、遺跡、文化的景観などからなる「文化遺産」や、地形や地質、生態系、絶滅の恐れのある観植物の生息・生育地などからなる「自然遺産」、文化遺産と自然遺産両方の登録基準を満たす「複合遺産」だ。
目的は、「顕著な普遍的価値」を有する建造物や遺跡、景観、自然などを、人類共通のかけがえのない遺産として保護・保存すること。世界には、「グランドキャニオン国立公園」や「ヴェルサイユ宮殿と庭園」、日本では「法隆寺地域の仏教建造物」や「屋久島」「白神山地」などがある。
なお、2021年7月に新たに登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を含め、現時点で日本国内の世界遺産は全25カ所(文化遺産25、自然遺産5)となっている。
最初に登録された世界遺産よりお薦め4選
1978年に第1号として登録された世界遺産は、以下の12件。
■文化遺産8件
アーヘン大聖堂(ドイツ)
ヴィエリチカ・ボフニア王立岩塩坑(ポーランド)
キト市街(エクアドル)
クラクフ歴史地区(ポーランド)
ゴレ島(セネガル)
メサ・ヴェルデ国立公園(アメリカ合衆国)
ランス・オ・メドー国定史跡(カナダ)
ラリベラの岩窟教会群(エチオピア)
■自然遺産4件
イエローストーン国立公園(アメリカ合衆国)
ガラパゴス諸島(エクアドル)
シミエン国立公園(エチオピア)
ナハニ国立公園(カナダ)
これらが世界遺産として登録されてから40年余りの時が流れた。どれも訪れてその歴史や自然を肌で感じたいが、今回はこのなかから4つのスポットを抜粋して紹介する。
イエローストーン国立公園(アメリカ合衆国)
アメリカ合衆国のアイダホ州・モンタナ州・ワイオミング州にまたがる国立公園。世界初の国立公園でもある。広さは四国の半分ほどと広大で、アメリカ最大規模の国立公園となる。
およそ1万ヵ所もの温泉現象が見られ、約200もの間欠泉や噴気孔などが敷地内の至る所に点在し世界屈指の温泉地帯となっている。なかでも見所は、「オールド・フェイスフル・ガイザー」と呼ばれる間欠泉。熱い湯を60分から110分の間隔で定期的に30~56mの高さに噴き上げ、「忠実(フェイスフル)」であることからこのように呼ばれる。
また、エメラルド色に透き通った温泉が随所にあり、「アサガオ(モーニング・グローリー)」の形をした「モーニング・グローリー・プール」がとりわけ目を引く。温度帯により生息するバクテリアが異なるため、見事なグラデーションになっている。
クラクフ歴史地区(ポーランド)
14世紀から17世紀の初頭まで、ポーランドの首都として栄えたクラクフ。第二次世界大戦の戦火を免れた古い街並みが残り、現在も主要都市の一つとして人気がある。
クラクフ旧市街には、中世のものとしてはヨーロッパ最大の中央市場広場や、聖マリア教会とそのゴシック様式の木彫祭壇が観光の目玉となる。街のシンボルとなっているのが、ドラゴン伝説が残るヴァヴェル城。王宮や大聖堂、ルネサンス様式の礼拝堂など中世の佇まいが残る街は必見であろう。
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クラクフ 聖マリア教会の尖塔から
第二次世界大戦中にはナチス・ドイツの司令部が置かれ、ユダヤ人居住区が設けられた。現存するシナゴーグ(ユダヤ教の教会)を訪れ歴史を肌で感じよう。
ポーランドでは、「二度と同じような過ちが起こらないように」という願いを込めて、「アウシュヴィッツ強制収容所」も世界遺産として登録されている。クラクフとあわせて訪れる観光客は多い。
キト市街(エクアドル)
エクアドルには、多様な動植物が生息するアマゾン地域、「オリエンテ」(熱帯雨林地帯)、「シエラ」(山岳地帯)、「コスタ」(海岸地帯)、「ガラパゴス諸島」と4つの表情がある。エクアドルの世界遺産というと、ガラパゴス諸島がよく知られているが、アンデス山脈の高地にあるエクアドルの首都キトの旧市街も世界遺産に登録されている。
キトは16世紀にスペイン人の侵略により建設された植民都市で、旧市街には植民地時代の面影が色濃く残っている。街のシンボルであるバシリカ教会や、金色の教会として知られるラ・コンパニーア聖堂、その他南米諸国にキリスト教を布教するために建築された教会など、見所が点在する。
ランス・オ・メドー国定史跡(カナダ)
カナダの最東部ニューファンドランド島の最北端にあるランス・オ・メドー国定史跡。「アメリカ大陸を発見したのはコロンブス」というのが歴史の通説だったが、それ以前に北欧からやってきたバイキングがこの地に入植したことを証明する遺跡として知られる。コロンブスによる発見より実に約500年も前のことで、同遺跡は歴史上重要な考古遺跡となった。
発見されたのは、船の修理に使用された製材所やさまざまな生活道具など。溶鉱炉の跡まで見つかり、製鉄を行っていたこともわかっている。遺跡の近くには、当時の暮らしぶりがわかるよう、住居などを復元したバイキング村がある。
世界遺産の意義を再確認
世界遺産の登録件数は年々増えていく一方で、気候変動や災害、紛争などで深刻な被害を受けている世界遺産もある。今回ご紹介した、第1号として登録された世界遺産12件は、「顕著で普遍的価値を有する建造物や自然などを保護・保存する」という世界遺産条約の目的が色濃く出た顔ぶれといえよう。
新型コロナウイルス感染症拡大のため以前のように外出や渡航ができず、もどかしく思う人もいるだろう。そんなときこそ、世界観光の日をきっかけに世界遺産の意義をあらためて確認し、いつか旅するときの参考として行きたい場所リストに入れておこう。
※旅行計画の際は、外務省の海外安全ホームページや現地報道などを通じて、渡航や渡航先の情報をご確認ください。
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