五月晴れの空にこいのぼりがゆらゆらと泳ぎ、その向こうに一本の飛行機雲。そんな爽やかな季節となってまいりました。皆さまはいかがお過ごしですか?
さて、今では当たり前となった乗り物「飛行機」ですが、その誕生からこれまでには、先人たちのたゆまぬ努力と創意工夫が積み重ねられてきました。今日も、私たちは一便一便を安全に、そしてより快適に運航するため、日々努力を重ねています。実はそのうちの一つに、パイロット訓練の進化があります。
従来の訓練は、万が一トラブルが発生した場合にどう対応するかといった、操縦訓練が中心でした。訓練の評価も、航空機の速度や高度のズレの大きさ、姿勢の乱れなどわかりやすいものが中心でした。しかし、航空機の進化とともに、パイロットに求められる能力も変化してきています。例えば自動車の場合でも、「下校時間だから子どもが多いかもしれない」といった状況認識をもとに運転することが、安全を維持するうえで重要です。同じように、パイロットにも状況認識やコミュニケーションなどの、いわゆるノンテクニカルスキルが必要だということがわかったのです。
そこで、操縦などのテクニカルスキルに加え、状況を把握する力や判断力、コミュニケーション力などのノンテクニカルスキルも訓練することにしました。実機を模したシミュレーターでは、機長と副操縦士が刻々と変化する状況認識を共有し、より品質の高い判断を下せるよう訓練を行っています。さらに座学では、誤解や思い込みなどのコミュニケーションエラーを防止するための具体的な方法も学んでいます。
このように進化を続けるパイロット訓練ですが、近年このノウハウを、ほかの分野にも活かそうという取り組みを始めています。
パイロットの訓練は「人間は必ずエラーを起こす」という考え方が大前提となっています。皆さんも日常生活のなかで、思い込みなどが原因で失敗したことはありませんか? その失敗が次の失敗を引き起こす、なんてことも起こりがちです。このようなエラーの連鎖を「Chain of Event」といいます。飛行機の運航中、コミュニケーションエラーが、さらにエラーを誘発しては大変です。そうならないために、ノンテクニカルスキルの訓練を行っているのです。
同じように、医療・鉄道・大規模プラントなどでも「Chain of Event」は防がなければなりません。ですので、私たちが日々蓄積してきたノンテクニカルスキル訓練のノウハウを、さまざまな分野の方々へお話しさせていただいています。「人間は必ずエラーを起こす」。このことに気づくだけでも、自分の行動は変わるはずです。今はまだ小さな取り組みですが、少しでも社会が安全になるように貢献していきたいと思っています。
石川宗 Hajime Ishikawa
JAL
ボーイング767型機 機長
出身地:栃木県
趣味:ゴルフ・映画鑑賞・音楽鑑賞
座右の銘:一日一善
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