野趣豪快。焼いた石を放り込んでひと煮立ち
「わっぱ」は薄板で作られた曲げ物。この器に魚介やごはんを入れて蒸したものがご存じわっぱめし、新潟県の名物料理である。さて、その新潟県北部の西海上にある離れ島には、わっぱ煮という海辺で作るもう一つの名物がある。
浜に上がった漁師たちのまかない食だったといわれるこのわっぱ煮。だから、飾らず豪快である。
まず、獲れたばかりのアイナメ、ギンポ、ベラなど雑魚を磯でさばき、大きな木の串に刺して準備ができると、焚き火をおこしてそのそばでゆっくりと炙り始める。まちがっても急いで焼こうと直火で焦げめをつけたりしてはいけないのである。
波打ちぎわのこぶし大の石ころを拾って、わっぱの数だけ火の中に入れて焼いておく。やかんが焚き火のそばで湯気を立てる。
魚の炙りぐあいがちょうどいいとなったところで、魚を串から外してわっぱに入れ、湯と焼いた石を順に入れてぶわっと沸騰させ、そこにすかさず味噌を溶き込む。仕上げにザクザクと切った長ネギを散らすとわっぱ煮のでき上がりだ。
焼いた石の独特な磯の風味がかもしだす、漁師仕立ての味噌汁とでもいえばいいだろうか。海を目の前に野趣溢れる島の味である。
DATA|都道府県:新潟県 島の周囲:23.1km(*1) 人口:370人(*2)
粟島へのアクセス
大阪(伊丹)、札幌(新千歳)、名古屋(小牧)、福岡から新潟空港へ、JALグループ便またはコードシェア便が毎日運航。空港から車で約1時間の岩船港から粟島までフェリーが運航。
加藤庸二
かとう ようじ/島フォトグラファー。国内の上陸可能な有人島すべてを踏破した島のスペシャリスト。著書に『日本百名島の旅』『島の博物事典』ほか多数。
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