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COFFEE & TRAVEL スマトラ島 定番人気のマンデリン。個性を醸す製法は?

文/高橋敦史 写真/堀口珈琲(産地)、高橋敦史(店舗)

大小1万7000にもおよぶ島々を擁する島しょ国家インドネシア。国のほぼ西端に位置するスマトラ島は、マンデリンコーヒーの産地として有名だ。同島北部の奥地にあるトバ湖の中央には水面に抱え込まれたかのように巨大なサモシール島が横たわり、地図で俯瞰するとまさに環状の湖だとわかる。今回紹介するのはその南岸一帯で収穫され、日本のカフェでもしばしば目にする「LCFマンデリン」。上品で個性的な味わいを育てた風土を訪ねてみたい。

 

コーヒー好きなら知っている「LCFマンデリン」

トバ湖周辺はもっぱら地元インドネシアの観光客しか来ない、ゆったりと時が流れる静かなところ。観光的な目玉は少ないものの、穫れるコーヒーの個性はなかなか強い。

 
マンデリンと聞けば「ああ、あれね」と個性を想像できるコーヒー好きも多いはず。というのも、マンデリンは世界的にも珍しい「スマトラ式」という精製法で仕上げられるため、味わいが極めて特徴的なのだ。

 
そして、もしもあなたがLCFマンデリンという銘柄に聞き覚えがあるならば、きっとかなりのコーヒー通。LCFマンデリンは日本のスペシャルティコーヒーの草分け的存在、堀口珈琲の指定農家で栽培・収穫・精製されたブランドだ。

 
スマトラ

▲スマトラ島の農家で。果肉をパルパーと呼ばれる除去機で取り除いてゆく。

 
深煎りにしてもきちんと残る酸味、淹れたての際のシナモンやバニラを思わせる深み、後味で長く続く濃厚な甘さ……。そんな味わいの厚みと複雑さは製法由来だ。いや、もっといえば、スマトラ島の気候風土によっているといえるかもしれない。

 
スマトラ式精製は一般的なウオッシュド(水洗式)の一種でありながら、コーヒーチェリー(赤い実)の果肉を取った後の処理が異なる。通常はパーチメントという殻で覆われた状態で乾燥させるところを、スマトラ式ではそこからさらに脱殻して薄皮も取り除き、いわゆる「生豆」の状態にしてから本格的に乾かしていく。

 
コーヒー豆の制作

▲スマトラ式精製は一般的なウオッシュド(水洗式)に近いが、脱殻後の生豆の状態で本格的な乾燥を行う。右下写真の中央が堀口珈琲の創業者・堀口俊英さん。

 
予備乾燥も含めた乾燥は3度に及ぶそう。これこそ「乾期でも雨が多いスマトラ島ならでは」の精製法。乾燥中のコーヒー豆にとって雨は大敵。いかにうまく乾燥させるかに、スマトラ島のコーヒー農家は長年注力してきたというわけだ。

 
堀口珈琲のLCFマンデリンは高い品質を保つため、二次乾燥・三次乾燥は農家に任せず、北スマトラ州の州都・メダンの工場に運んで専用の網棚で乾かしている。

 

井の頭公園にも近い新店舗で薫り高い一杯を

堀口コーヒー

▲堀口珈琲 三鷹下連雀店は通りに面したマンションの前庭に建つ。もちろん誰でも利用可能。

 
「今回LCFマンデリンを取り上げていただいて、とても嬉しく思っているんです。長年扱う、弊社の重要な商品の一つですから」

 
そう話してくれたのは堀口珈琲の広報担当・中川紗彩(さあや)さん。訪ねた店は堀口珈琲が2020年春にオープンさせたばかりの三鷹下連雀店だ。

 
井の頭恩賜公園の南端、ちょうど三鷹の森ジブリ美術館のあたりから歩けば5分ほど。真新しいマンションのエントランス部分に店はある。木々に抱かれ、窓は大きく、店内から外を望むと巨大な2本のヒマラヤスギがそびえ立つ。

 
「昔からこの土地を象徴する大切な木で、マンション建設時にも残したそうですよ」

 
天井の高い開放的な店内でLCFマンデリンを頼んでみた。この三鷹下連雀店が面白いのは抽出を最新鋭マシンで行うこと。カウンターに「にょきっ」と生えた白い物体がアメリカ西海岸・カーチス社のセラフィムというマシン。

 
堀口コーヒー

▲左上/モダンな雰囲気の内装。右上・左下/三鷹下連雀店ではカーチス社のセラフィムで抽出。右下/LCFマンデリン(本日のホットコーヒー/税込550円)とフレンチトースト+メープルシロップ(税込550円)。(写真は撮影のためにマスクや間仕切りを外しています)。

 
「それぞれの豆に合った淹れ方を細かく設定できるので、弊社バリスタが最適な条件を入力し、プロの抽出を再現します」

 
シャワー状かつ断続的にお湯が滴下される様子を眺め、思わず質問してしまう。

 
「LCFマンデリンは特に時間の設定が難しいんです。お湯が粉の層を通り抜けやすい特徴があるので、その分、少しずつ注ぐ設定にしています。ご自宅でドリップする際もそうした特徴に注意するといいと思います」

 
と、スタッフの齊木宗一郎さん。店では抽出を機械に任せたおかげで「バリスタとお客さんとの会話が弾む」という副次的な利点も生まれたそうだ。

 
コーヒーとあわせて味わったのは三鷹下連雀店限定のフレンチトースト。使うパンは仙川に本店を持つ人気店AOSAN(アオサン)の角食パン。聞けば、これを使ったフレンチトーストを開発したのも齊木さん。料理人の経歴もあって、得意なのだそう。

 
堀口コーヒー

▲上/高く広い窓から緑を眺める。左下/暑い夏には窒素ガスを使ったスタウトコーヒー(税込660円)もぜひ。右下/LCFマンデリンの豆販売は200gで税込1,620円。公式Webサイトの通販でも購入可能。

 
深めのフレンチローストで焙煎されたLCFマンデリンは、ホットはもちろん、暑い時期のアイスコーヒーにもぴったり。堀口珈琲各店舗にほぼ通年置かれており、三鷹下連雀店では「本日のホットコーヒー」として週2〜3回登場した際にのみ注文できる。また、店頭や公式サイトでの豆販売もあるので、豆を買って自宅で楽しむ方法もある。

 
とはいえ今回味わったLCFマンデリンは2020年7月に輸入されたばかりのニュークロップ。まずはぜひとも、木漏れ日輝く三鷹の店で味わってみてほしい。

 
高橋敦史
旅行媒体を中心に活動する編集ディレクター・紀行作家・写真家で、季刊雑誌『珈琲時間』編集長。移動編集社代表。温泉旅行やバックパッカーからリゾート、クルーズまであらゆる旅を撮って書く。昨今はバンライフにも目覚め、走る事務室「移動編集車」を稼働中。

 

堀口珈琲 三鷹下連雀店
住所:東京都三鷹市下連雀5-1-1-E4
TEL:0422-26-8665
営業時間:10:00~18:00
定休日:なし(夏季・年末年始の休業あり) 禁煙
JR中央線吉祥寺駅からバス6分プラウドシティ吉祥寺下車すぐ。または同駅からバス5分下連雀下車、徒歩3分

 
 

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