旅への扉

ドイツ 聖なる4週間 [Vol.2]

文/鈴木博美 撮影/Ryoichi Sato

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フランクフルト 詩人の足跡、西から東へ

フランクフルトからドレスデンまでの東西を結ぶゲーテ街道沿いの街を訪ねてみよう。

フランクフルトから北東へ鉄道で約1時間のところにフルダという小さな街がある。ここは、8世紀にドイツの守護聖人である聖ボニファティウスによってベネディクト派の修道院が建てられたことから始まる。その後、数多くのバロック様式の建物が建ったことからバロック都市とも呼ばれている。

 
凍てつく寒さのなか、旧市街内の広場ごとに市が立つフルダのクリスマスマーケットは、どれもこぢんまりとしたものだが、木片を敷き詰めた「冬の森」をイメージした市など、趣向を凝らした演出で訪れる者を楽しませてくれる。

 
聖ボニファティウスとクリスマスツリーには、ちょっとした関係が言い伝えられている。その昔、聖ボニファティウスが布教のために訪れた村では自然崇拝により、樫の木に生贄として子どもを捧げていた。残虐な行為の戒めに樫の木を切り倒した聖ボニファティウスは、そばにモミの木の若芽があるのを見つけ、これをキリストの奇跡に結び付けて、信仰のシンボルとしたという故事がある。諸説あるが、クリスマスツリーを飾る習慣は、ここから始まったともいわれる。

 
st,nicolous

▲左/サンタクロースの起源は3~4世紀のギリシャ人司教・聖ニコラウス。右/ルターはクリスマスツリーのイルミネーションの始まりとも関係が深い。

 
またフルダから鉄道で北東へ1時間ほどのところにあるエアフルトは、ドイツ中央部、テューリンゲン州の州都で旧東ドイツに属していた街。宗教改革のきっかけをつくったルターが修道士としての一歩を歩み始めたのもこの街だ。ルターの宗教改革で聖人崇拝が否定されてから、サンタクロースの原型である聖ニコラウスの役目を引き継いだのが、 クリストキントという天使。ドイツではサンタではなく、金髪の長い巻き毛の天使がクリスマスイブの夜にプレゼントをツリーの下に置いていく。

 
Christmaspyramid

▲左/屋台グルメを頬張るのも楽しみ。右/クリスマスピラミッド。

 
エアフルトのクリスマスマーケットは、有名都市に勝るとも劣らない華やかさを誇り、ドイツで最も美しいものの一つに数えられている。キリスト誕生の場面を表した等身大のクリッペや、旧東ドイツで多く見られるクリスマスピラミッドなど、華やぎのなかにも神聖な見所に溢れている。

 

ドレスデン 聖夜を待ちわびて

Christmasmarket

▲左/ブリュールのテラスから続く小径に立つクリスマスマーケット。右/ドレスデンの三位一体大聖堂。

 
ゲーテ街道の終着地ドレスデンは、ドイツ東部に広がるザクセン州の州都。ゲーテは壮麗なバロック様式の建造物と、周囲の自然が織りなす洗練を極めたこの街を気に入り、度々訪れていた。特にエルベ河畔に延びる「ブリュールのテラス」と呼ばれるプロムナードから眺める景観を「ヨーロッパのバルコニー」と称賛し、散策を楽しんだという。

 
そんな美しいドレスデンのクリスマスマーケットは、1434年に始まって以来、「シュトリーツェル・マルクト」と呼ばれてきた。シュトリーツェルとは、クリスマス菓子「シュトレン」の古語。ここはシュトレン発祥の地でもあるのだ。現在ではドイツ各地でこの時季にシュトレンが販売されているが、ドレスデンのそれは「ドレスナーシュトレン」といわれ、ほかとは一線を画す。小麦粉100㎏に対して70㎏以上のドライフルーツ、10㎏以上のアーモンドなど、材料の分量が厳密に指定され、ドレスデンにある約150軒のベーカリーは門外不出のレシピを代々受け継ぎ、味を競っている。

 
Stollen

▲左/ドレスデン発祥のシュトレン。右/シュトレンとも関係の深いアウグスト強王が描かれたマイセン磁器タイルの壁画「君主の行列」。

 
手に取るとずっしり重いシュトレン。職人の思いが詰まったこのお菓子を薄くスライスしてアドべントの季節に少しずつ楽しみながら、クリスマスを待つ。時間を掛けて食べることで、熟成していく味の変化を楽しむこともできるのだ。

 
ドレスデンのクリスマスマーケットは、「ドイツで最もロマンティックなクリスマスマーケット」といわれる。そのなかでも最たるものが、マイセンのタイルからなる壮麗な壁の内側で開かれる中世のマーケットだ。ここでは、値段も中世に使われていた通貨単位ターラーで表示。場内には、中世風の衣装をまとった人が屋台に立ち、鍛冶屋や木工職人が実演している。夜を迎えると幻想的な雰囲気に包まれ、さながら中世の街角に迷い込んだようだ。

 
アドべント・クランツのキャンドルが灯される度にさまざまなイベントが開催され、楽しく華やかな時間が過ぎてゆく。そして4本目に火が灯り、アドべント・カレンダーの最後の窓を開ける時、クリスマスマーケットは終わる。夜は家族と暖かい部屋のなかで、残り僅かとなったアドべントの時間を過ごすのだ。待ちわびたクリスマスが、まもなくやってくる。

 

 

Information about Germany

ゲーテ街道 Goethestraße
Goethestraße
フランクフルトからドレスデンを結ぶ、ドイツの再統一後に誕生した、旧西ドイツと旧東ドイツを初めて結んだ600kmのルート。ゲーテゆかりの地を巡るだけでなく、バッハやワーグナー、シラー、ルターなど文化人の足跡に触れ、世界遺産の城や街を訪れることができる。
また、街道沿いでは、その土地ならではの郷土色豊かな料理も味わえ、12月には街ごとに個性豊かなクリスマスマーケット巡りも楽しい。

 

ドイツへのアクセス

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東京(成田)よりフランクフルトへJAL直行便が毎日運航。フランクフルトより鉄道でフルダまで約1時間、エアフルトまで約2時間10分、ドレスデンまで約4時間20分。

 

(SKYWARD2018年12月号掲載)
※記載の情報は2018年12月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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