旅への扉

カウアイ・ハワイ 小さなビーチの、小さな幸せ [Vol.1]

文/浮田泰幸 撮影/伊藤徹也

ハワイ諸島最古の島、カウアイ島。その北の果てにあるハナレイは、映画『南太平洋』のロケ地として、またフラの名曲『ハナレイ・ムーン』で知られるところ。多くのツーリストを惹きつける海辺の町は、訪ねてみると、人の魅力と月の魔法に満ちたこの世の別天地だった──。

 

橋を渡ってハナレイへ【前編】

月明かりの下でハナレイを眺めると
海辺の天国にいるみたい
すべての風、あらゆる波が囁く
君は僕のもの、どこにも行かないでと
ハナレイ、ハナレイの月が
愛しいカウアイを照らす
ハナレイ、ハナレイの月よ
あなたのことが好きなの

 
『ハナレイ・ムーン』

 
その海浜の町を訪ねる前にどうしても聴いておかなくてはならない曲があった。『ハナレイ・ムーン』は、ゆったりとしたテンポとメロウな調べを持つハワイアンソングの名曲だ。カウアイ島ハナレイ・ビーチで見上げる月の美しさに恋人を慕う切なる心情を重ねたその歌詞はしかし、いささか素朴すぎて名曲と呼ぶには深みが足りないように思えた──。

 

▲左/橋を渡ってハナレイへ。右上/ワイオリ・フイイア教会。右下/町の目抜き通り。

 
われわれがカウアイ島に降り立ったのは、今年何度目かの水害にこの島が見舞われた直後のことだった。レンタカーを駆って、クヒオ・ハイウェイ(R56)を一路ノースショアへと向かう。右手に波頭を銀色に煌めかせる海、左手には熱帯植物の艶やかな緑と火山岩の山肌の赤褐色が展開する極彩色のドライブだ。

 
1時間ほど走ると、道は鬱蒼とした落葉高木の樹海に入る。車外の空気が明らかに変わったのがわかる。樹海を抜けると、ハイウェイは崖の側面に沿って下り始める。まるで何かを諦めたかのように。やがて右に大きくカーブを切ると、小さな川に架かった鉄橋に差し掛かる。この観光バスも通れぬ古びた橋がハナレイを“俗世”と隔絶し、“天国”としての聖性を保つ役割を果たしていると知ったのは後になってからのことだ。橋を渡り、タロ芋畑の脇を走ること数分、路傍のレストランの店先に作り物の巨大なブルー・マーリン(クロカジキ)が吊り下げられているのが目に留まる。われわれは既にハナレイの町に入っていた。
 

▲左/ローカルメイドを扱う「オハナ・ショップ・カウアイ」を営むチャンドラー一家。右/「ショコラ・ハナレイ」のイルムガルド・ミッチェルさん(左)はカリフォルニアから移り住みカカオを栽培。

 
ラナイを備えたカフェやレストラン、サーフショップ、土産物店……1㎞ほどの間、通りの両側には海辺の観光地らしい店舗が軒を連ねる。一部の商業施設が2階建てであるのを除いて、すべての建物が平屋で見通しがよく、空が広い。空と町の間には、ナーモロカマ山とそれに連なる峰々が横たわる。頂は雲に隠されているが、山肌に幾筋もの滝が流れているのが見える。カウアイは世界で最も多量の雨が降る場所の一つだ。カーペンター・ゴシック様式の教会の立つ公園の辺りで視界が一段と開けると、町並みは静かな住宅街に一変し、その直後、道路は唐突に通行止めになった。セカイノオワリ……?

 
「教会の向かいにかつて郵便局だった建物があったのに気付いたかな?郵便局と言っても、私書箱の数はたったの40だったが。私の祖母はそこで郵便局長を務めていたんだよ」

 
カウアイ郡の経済開発部に勤務するジョージ・コスタさんは現在64歳。ハナレイの今昔を知る人だ。「今では外から移住してきた人も増えて、ローカルの気質もカリフォルニア人と変わりないけど、私がここで育った60年代は、人々は飾らず寡黙で辛抱強く、たいていは米やタロ芋を作るか漁に出て暮らしを立てていたものだ」。

 

▲左/ジョージ・コスタさん。右/「タヒチ・ヌイ」の看板。

 
コスタさんは4歳の時に参列した曽祖母の葬儀のことを鮮明に覚えている。喪服の人々のなかに“泣き女”が数人いて大げさな嗚咽を響かせていた。その頃、ビーチには高い木に登って海を監視する者がいて、魚影を認めると町中に触れを出して人々を集め、総出で地引網を行った。月の夜にカンテラを炊いて桟橋から釣り糸を垂らすと、餌もなしにたくさん魚が釣れた。桟橋の袂には掘っ建て小屋が立ち、男たちが集まっては酒盛りをしていた。簡単なつまみを作る黒い鍋が提げられたその小屋は「ブラック・ポット」と呼ばれた。

 

▲ハナレイ・ビーチの桟橋。

 
暮れ方、祖母に命じられてそこに祖父を呼びにいくと、祖父はジョージ少年に“賄賂”の小銭を握らせ、しばし酒と仲間との時間を引き延ばすのだった。少年にとっては刺激と幸福感に満ちた日々。海辺の町にはイノセントな時間がゆっくり流れていた。70年代にツーリズムの波が押し寄せて、伝統的なライフスタイルを洗い流してしまうまでは。︎

 
それでもハナレイの美点は違うかたちで残った。その象徴が町の目抜き通りにあるレストラン・バー「タヒチ・ヌイ」である。

 
Vol.2へつづく

 

 

Information about Kauai

ラウハラ編みの帽子などローカルメイドの雑貨が揃う

オハナ・ショップ・カウアイ Ohana Shop Kauai

電話:1-808-634-0194
住所:5-5190 Kuhio Hwy, Hanalei, Kauai
URL:ohanashopkauai.com

 
 

ハワイアンミュージックのライブが楽しめる老舗

タヒチ・ヌイ・レストラン Tahiti Nui Restaurant

電話:1-808-826-6277
住所:5-5134 Kuhio Hwy, Hanalei, Kauai
URL:thenui.com

 
 

カウアイのカカオから手作りするチョコレート

ショコラ・ハナレイ Chocolat Hanalei

電話:1-808-826-4470
住所:5-5190 Kuhio Hwy, Hanalei, Kauai
URL:www.chocolathanalei.com

 
 

タロを使ったベジ・バーガーやスムージーが絶品

ハナレイ・タロ&ジュース・カンパニー Hanalei Taro & Juice Co.

電話:1-808-826-1059
住所:5-5070 Kuhio Hwy, Hanalei, Kauai
URL:www.hanaleitaro.com

 
 

カウアイの太陽と潮騒を存分に感じる

ホテル・ザ・アイエスオー Hotel The ISO

島の東岸、朝日の昇るカパアのビーチフロントに佇むホテル。「モキハナ」として知られた老舗コンドミニアムをリノベーションし、2018年春にオープンした。プライムリブが名物のレストラン「ブル・シェッド」を併設している。
電話:1-808-822-3971
住所:4-796 Kuhio Hwy, Kapaa, Kauai
URL:www.theiso.com

 

カウアイ島へのアクセス


東京(成田)、名古屋(中部)、大阪(関西)からホノルルのダニエル.K.イノウエ国際空港へ、または、東京(成田)からハワイ島のエリソン・オニヅカ・コナ国際空港へJAL直行便が毎日運航。各地からハワイアン航空とのコードシェア便でカウアイ島のリフエ空港へ。

 

(SKYWARD2018年11月号掲載)
※記載の情報は2018年11月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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