旅への扉

ロンドン 高架下で待ち合わせ [Vol.3]

文・撮影/山内ミキ

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秘密基地には、誰だって心が浮き立つ。ロンドンの南玄関、ウォータールー駅の真下に眠っていたアーチの大回廊を改造し、アートイベント会場に変貌を遂げたのが「ザ・ヴォルツ」である。

 

闇に沈む光 アーチが織り成す迷宮

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▲左・右上/「ザ・ヴォルツ」で開催されていたのは交響詩『魔法使いの弟子』にインスパイアされた「ファンタジア」。ヘッドフォンで音楽を聴きながら回廊を巡る。右下/ウォータールー駅

 
トンネル内に突如入り口が現れるこの空間は、11年前、今や世界に知られるグラフィティー・アーティスト、バンクシー主催のアートフェスで偶然発見された。その時集まった数百人の若者は、スプレー塗料でアートを制作していた。トンネル内にガスが充満し、換気のために開けたドアが、後にザ・ヴォルツとなる地下回廊につながっていたのだ。ここも1848年にテムズ川の氾濫を恐れて、線路を高架に上げたために生まれたものである。

 
「イベントは、アンダーグラウンドで開催することに意味のあるものでなければなりません」とザ・ヴォルツのディレクターのキーロン・バンストーンさんは言う。「未知の世界を探検したい人々の視覚・聴覚に、大胆に迫る体験を提供したい。アーチをくぐると別世界が広がる、シアターと美術館の中間のような体験です。ジャンルの異なるクリエイターを組み合わせ、刺激的な結果を導き出すように心掛けています」。

 
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▲左/自由にペイントできるトンネル。グラフィティー・アーティストの天国だ。右/「ザ・ヴォルツ」で使った小道具は、近くのパブ「ヴォルティー・タワーズ」に。

 
時間的にザ・ヴォルツに行けない時は、月のバルコニーや木陰のテーブル、動物たちが見下ろす洞窟でビールを傾けてみては。ザ・ヴォルツの大掛かりな舞台装置の一部は、近隣の系列パブ「ヴォルティー・タワーズ」に「見せる収納」として飾ってある。過去のイベントで使われた小道具や装置のアーカイブとしても機能し、必要なものは随時動員している。アリスのように、兎を追ってワンダーランドに迷い込む。2月から3月は、8週間にわたり、350のショーを繰り広げる「ヴォルツ・フェスティバル」が開催予定だ。

 

コミュニティーが育つアーチの輪

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そんなアンダー・ワンダーランドを後にし、デプトフォードを訪ねる。郊外といってもよいのどかな雰囲気だが、ロンドン・ブリッジ駅から列車でわずか13分ほどのベッドタウンだ。土曜の昼下がりの駅前は、人が一番集まる時間。カラフルな色あいのマンションと、すっきり整えられた広場に沿った高架アーチは、戦時中シェルターとして使われたという。

 
「デプトフォード・マーケット・ヤード」は、観光客やオフィスで働く人で四六時中賑わう中心部の高架施設とは違い、地元のコミュニティーがのんびりと過ごす場所といった印象がある。例えば「ウィー・ラブ・デプトフォード」と書かれた看板が指すアーチは、ヴィンテージの家具で飾られたラウンジスペース。冬はこんなところでお籠りし、夏は広場のパラソル付きテーブルで、明るい夜を楽しむのもいいだろう。このように、コミュニティーの磁場として自発的に育っている高架施設も、郊外のあちこちにある。

 
今度は、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックのメイン会場となったストラトフォードから、約3km東に足を延ばしてみよう。

 
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▲毎週替わる美味しそうなメニューに、オーダーを悩んでしまう「アーチ・ライバルズ」。

 
「アーチ・ライバルズ」のオーナーシェフ、マイケル・サンダーズさんはイギリスの人気料理テレビ番組「マスターシェフ」のファイナルへ勝ち進み、1年前にこのレストランをオープンした。アジアの香辛料に造詣が深く、キムチなどの発酵食品を自在に扱い、パンチのある味付けで舌を驚かせてくれる。

 
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▲マイケルさんと奥様のカレンさん。

 
「近所の人が飽きないよう、メニューは週替わり。でも味の追求が面白くてシェフになったのだから、自分が飽きないのが一番だよ。過去には3カ月で約1100食も売れたメニューがあったけど、続けなかった。常に新しい味覚で、食べる人の心をつかみたいからね」とマイケルさん。

 
このエリアは賃料が安く、3カ月単位で更新できることも新進を鼓舞し、周辺の高架下もビジネス1年生で埋まりつつあるという。コミュニティーとして一人立ちするのも、もうすぐなのではないだろうか。

 
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▲右/ソフトクラブの包(パオ)サンド(手前)。ブラッディーマリーはキムチのジュース入り!左上/カジュアルな雰囲気で赤ちゃん連れもウェルカム。左下/キムチのみならず、お酢も手作り。

 
Vol.4 へつづく

 

 

Information about London

ザ・ヴォルツ The Vaults
電話:44-20-7401-9603
住所:Leake St., Lambeth, London イベントにより開催日と営業時間が変わるため、ウェブサイトにて要確認。
URL:www.thevaults.london

 
 
デプトフォード・マーケット・ヤード Deptford Market Yard
住所:Deptford Market Yard, London
営業時間:営業時間と定休日は店舗により異なるため、ウェブサイトにて要確認。 問い合わせは info@deptfordmarketyard.comまで。
URL:www.deptfordmarketyard.com

 
 
アーチ・ライバルズ Arch Rivals
住所:361 Winchelsea Rd., London
営業時間:18:00~23:00(水・木)、18:00~24:00(金)、12:00~24:00(土) 月・火・日
URL:www.instagram.com/archrivals_e7

 
 

テムズ川に浮かぶ水上ホテル

グッド・ホテル・ロンドン Good Hotel London
goodhotellondon
市街の喧騒から離れ、ゆっくりと寛げる空間は、モダンでスタイリッシュな内装。駅も近く、ロンドン市内の観光にも最適。非営利団体が経営しているホテルなので、泊まっただけで社会貢献になる。
電話:44-20-3637-7401
住所:Western Gateway, Royal Victoria Dock, London
URL:www.goodhotellondon.com

 
〇コーディネーション:桑山美由紀

 

ロンドンへのアクセス

東京(羽田)より直行便が、東京(羽田、成田)よりコードシェア便がヒースロー国際空港へ毎日運航。

 

(SKYWARD2019年2月号掲載)
※記載の情報は2019年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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