南米大陸、標高5000mを超えるアンデスの山々を縫って走る豪華列車がある。それが「Belmond Andean Explorer(ベルモンド アンデアン・エクスプローラー)」。白亜の都アレキパから、天空の湖チチカカ湖を抜け、インカの中心クスコを結ぶ南米初のクルーズトレインだ。さあ、未知への憧れをかき立てる冒険の旅へ。
目次
旅の序章 神の鳥が棲む谷と白亜の都
アンデスの山々に囲まれた、どこまでも続く平坦な高原をひたすら走る。湿地帯ではアルパカが草を食み、ペルーの国章に描かれているビクーニャが疾走する。標高約4900mの峠を越えると、神の鳥と呼ばれるアンデスコンドルが舞う谷はもう目の前だ。
コルカ渓谷は、ペルー南部を流れるコルカ川がアンデス山脈を削って造りだした、70kmにわたって続く巨大な渓谷。最も深いところで3800mに達し、アメリカのグランドキャニオンを凌ぐといわれる。ここにインカ時代から聖なる生きものの一つとして崇められてきたコンドルが生息する。晴れた日の早朝に限り、高い確率で見ることができるという神の鳥。今夜は渓谷沿いのホテルで体を休め、明朝会いに行くとしよう。アンデスミントをたっぷり入れたムニャ茶を手にテラスの長椅子に体を預け、渓谷を渡る風の音に耳を澄ます。紫色に染まる夕空に雪山が映える。夜を迎えた空には南十字星が瞬いていた。思えば、ペルーは赤道の南側に位置するのだ。
明くる日の早朝、コンドルの観察ポイントに向かうと、既に10羽ほどが上昇気流に乗り、谷間を旋回していた。頭上を通り過ぎる時、その迫力と大きさに圧倒される。渓谷を見下ろすと、目がくらむほど遥か下にコルカ川が流れている。富士山ほどの高低差がある谷底から吹き上げる風を捉えて、一羽のコンドルが空に浮き上がった。その美しくも神々しい姿は、インカの地にいることをあらためて感じさせてくれた。
コルカ渓谷の玄関口となるペルー第2の都市アレキパは、乾燥した山間にあるオアシスのような街だ。標高は約2300m。16世紀、スペイン人が故郷の地中海沿岸にある白い街並みを再現しようと、建造物の多くを周辺で採掘された火山岩で建設したことから、別名”白い街”と呼ばれている。
またこの街はペルーきっての美食の地としても知られる。標高のわりに温暖な気候から農業と畜産が盛んで、海へも近く新鮮な魚介類もたくさん入ってくるため、食材の宝庫なのだ。街の至るところにピカンテリアと呼ばれる食堂が点在し、郷土料理が堪能できる。チュペ・デ・カマロネスという濃厚な川エビのスープ、ロコトという唐辛子の一種に牛肉をふんだんに詰め、その上にチーズをのせてこんがり焼いたロコト・レジェノなどの逸品を食べずして、アレキパは語れない。
そんな麗しき美食の街は、これから乗車する「ベルモンド アンデアン・エクスプローラー」の発着を担う。アガサ・クリスティ原作『オリエント急行の殺人』の舞台として知られる「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」を運行するベルモンド社と、ペルーレイルとの共同運営による2泊3日のクルーズトレインだ。
「All Aboard !」
定刻の午後8時、列車はゆっくりとアレキパの駅を滑りだした。
Vol.2へつづく
Information about Peru
ベルモンド アンデアン・エクスプローラー Belmond Andean Explorer
オールインクルーシブの豪華クルーズトレイン。4つのルートがあり、今回ご紹介したのは「ANDEAN PLAINS & ISLANDS OF DISCOVERY」。バロック建築が美しいアレキパを日没と共に出発し、チチカカ湖、高原地帯を経て、古代インカ帝国の首都クスコへ向かう2泊3日のコースだ。ほか、クスコ―プーノ間の1泊2日コース、クスコ―チチカカ湖―アレキパを2泊3日で巡るコースもある。
ベルモンド ラス・カシータス Belmond Las Casitas
緑豊かなコルカ渓谷にひっそりと佇む20棟のバンガローは、すべてプライベートプール付き。コンドルウォッチング、アルパカフィーディング、ペルー伝統料理教室など、アクティビティーも豊富。
住所:Parque Curiña s/n Yanque, Arequipa
ベルモンド パラシオ・ナザレナス Belmond Palacio Nazarenas
かつての宮殿と僧院を数年かけて修復した、クスコ有数の高級ホテル。スイート55室からなり、24時間バトラー・サービスを完備。アルマス広場のすぐ裏手に位置し、街歩きの拠点に最適だ。
住所:Calle Plazoleta Nazarenas 223, Cuzco
ベルモンドについての問い合わせ・予約
電話:0066-3381-3732
URL: www.belmond.com/ja/
ミル・セントロ MIL Centro
リマのモダンペルー料理レストラン「セントラル」を営む料理人ヴィルヒリオ・マルティネス氏による、最新プロジェクト。
電話:51-926-948-088
住所:Via a Moray, Maras
URL:milcentro.pe
ラ・ベニータ La Benita
シェフが母親から受け継ぐアレキパ郷土料理と、インカの食材を使った実験的な料理の両方が楽しめるレストラン。
電話:51-972-348-929
住所:Plaza Principal 114 Characato, Arequipa
ペルーへのアクセス
東京(成田)、大阪(関西)からアメリカ・ロサンゼルス国際空港へJAL直行便が毎日運航。ロサンゼルスからLATAM航空とのコードシェア便でリマのホルヘ・チャベス国際空港へ。リマで乗り継ぎ、アレキパ、クスコへ。ほか、羽田、成田などからJAL 直行便で、ジョン・F・ケネディ国際空港または、ダラス・フォートワース国際空港を経由する行き方も。
取材協力/ペルー政府観光庁 www.peru.travel/jp
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