地球温暖化が叫ばれる昨今、年々夏の暑さが増しているような気がしている方も多いことだろう。では、この暑さはいつ和らぐのだろうか。暦のうえで目安になる「処暑(しょしょ)」を紹介しよう。
2024年の処暑は、8月22日。地域によっては時折吹いてくる心地よい夜風を感じ、次第に長くなる夜を楽しみながら秋の到来を待つ頃だ。
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目次
二十四節気の一つ「処暑」とは
処暑は、旧暦(太陽太陰暦)を使っていた時代に、1年を24等分して季節を表す語を当てはめた「二十四節気(にじゅうしせっき)」の一つで、14番目の節気を指す。
「処」という文字には「とめる」「とまる」などといった意味があり、この時期から次第に暑さが収まってくるとされている。太陽の黄経(太陽の通り道に沿って振った目盛りのようなもの)が150度に達した日が処暑となり、毎年日にちは変わる。今年は8月22日だが、年により8月23日が処暑となることもある。
また、処暑は、8月22日の1日だけでなく、9月6日ごろ(次の節気である白露前日)までの期間を指す場合もある。
夏の疲れをしっかりリセットして心身を健康に
暑さが峠を越し秋に向かう処暑とはいえ、最近の日本の夏は残暑が長く続く傾向にある。さらに、昔から処暑の頃は台風がよく来るといわれている。
自然は季節の恵みだけでなく、厳しい災害をもたらす脅威でもある。こうした災害に備えつつ、実りの秋を迎えるためにも、夏の疲れはこの時期にしっかり癒やしておきたいところだ。
そんな背景がある処暑だが、処暑の頃に行われるお祭りや年中行事にはどのようなものがあるか、紹介しよう。
伝統的七夕は処暑の時期?
七夕といえば、一般的には7月7日だが、国立天文台では旧暦7月7日に相当する日として、「二十四節気の処暑(しょしょ=太陽黄経が150度になる瞬間)を含む日か、それよりも前の処暑に最も近い新月の瞬間を含む日から数えて7日目」を伝統的七夕と呼んでいる。
これは、現在の暦での7月7日だとまだ梅雨明け前で、月も満月に近く明るいため天の川が見えにくい。そのため、伝統的七夕の日に、星空観望会やキャンドルナイトなどさまざまな活動を行なっている。2024年は8月10日、2025年は8月29日が伝統的七夕となる。この日、明かりを消して星空を見上げれば、天の川がきれいに見えるかもしれない。
国立天文台「伝統的七夕について教えて」
URL:https://www.nao.ac.jp/faq/a0310.html
意外と知られていない「秋の七草」
「七草粥」の風習で知られる「春の七草」ほど広まっていないが、秋にも七草がある。萩(ハギ)、薄(ススキ)、葛(クズ)、撫子(ナデシコ)、女郎花(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、桔梗(キキョウ)である。春の七草は、お正月の暴飲暴食で疲れた胃腸を休めるために、また厳しい冬を元気に越えられるよう、お粥にして食べるが、秋の七草は食用にはせず目で見て楽しむものである。
秋の七草は、歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)が『万葉集』(巻八)で詠んだ歌に由来する。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびおり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」
「萩の花 尾花葛花 なでしこが 花をみなへし また藤袴 朝顔(あさがお)の花」
春の七草のように食べられるわけでもなく、華やかな草も花も入っていないが、日本の秋らしいしみじみとしたよさを感じさせるものばかりで、風流を感じる。
処暑の時期の行事
「吉田の火祭り」(8月26、27日/山梨県)
日本三奇祭の一つに数えられる、「吉田の火祭り」。山梨県富士吉田市上吉田地区で行われ、国の重要無形民俗文化財に指定されている。
北口本宮冨士浅間神社(きたぐちほんぐうふじせんげんじんじゃ)と諏訪神社の祭りで、富士山の噴火を鎮めるために行われる。富士山は7月1日が山開きで、山じまいの祭りがこの吉田の火祭りというわけだ。
巨大な富士山の形をした神輿が渡御(とぎょ)し、8月26日の夜には、市中に並び立てられた70~80本ほどの大きな松明(たいまつ)に火がともり、富士山の山小屋でも火が焚かれ、山も町も火の海のようになる。
富士講(富士山を信仰する講社)なども参加し、祭りは深夜まで厳かに執り行われる。27日は神輿が氏子を巡り、浅間神社に到着する。氏子崇敬者が「すすきの玉串」を持って神輿の後を追うことから、27日の祭りを「すすき祭り」とも呼ぶ。
富士吉田市観光ガイド
URL:https://fujiyoshida.net/feature/himatsuri/index
「おわら風の盆」(9月1日~3日/富山県)
「越中八尾おわら風の盆」は立春から数えて210日目に行われる、農作物を荒らす暴風を鎮める祭礼でありながら、情緒豊かな踊りの芸能でもある。富山県富山市八尾町の旧町と呼ばれる、「東新町、西新町、諏訪町、上新町、鏡町、東町、西町、今町、下新町、天満町」と「福島」を合わせた合計11の町がその舞台だ。
「おわら」と「風の盆」の言葉の響きが実に謎めいているが、語源は諸説ある。
まず、おわらは「おわらひ(大笑い)」であるとする説、豊作祈願の「おおわら(大藁)」であるとする説、小原村の娘が始めたとする「小原村説」などがある。それから風の盆。風(台風)の被害が少なく済むよう祈願する祭りであることから、この名がついたといわれている。
語源だけでなく始まりについても不明なことが多い。元禄15(1702)年、町外に流出していた「町建御墨付」という重要書類を取り戻したことを喜び、三日三晩踊り歩いたことが起源とする説があるが、定かではない。
この踊りをベースに、風除けや五穀豊穣を祈願する祭礼となり、歌や踊りが後に改良されていった。
踊り手は揃いの浴衣を着て、編笠の間から少しだけ顔をのぞかせ、独特の所作を取り入れた踊りを披露する。三味線と胡弓(こきゅう)、締め太鼓の優雅な調べに乗せて、流し歩く踊りは妖艶で、一般的な盆踊りとは趣向が異なる。町ごとに歌と踊りが違うのも面白い。
越中八尾観光協会
URL:https://www.yatsuo.net/kazenobon
「地蔵盆」(8月23日頃/京都などの関西地域)
夏の終わりの風物詩、「地蔵盆」。京都発祥の、関西地方で盛んな仏教由来の行事である。地蔵とは地蔵菩薩のことで、子どもを守護する仏様である。
地蔵盆は、地蔵菩薩の縁日である8月24日やその前後の土日に、子どもの安全や健やかな成長を願って行われる。地蔵菩薩でなく大日如来を祭る町内では、その縁日である28日やその前後の土日に行われるところもある。一部地域では7月に行われるという。
昔は2日間行われるのが習わしであったが、最近は少子高齢化や地域コミュニティーの弱体化により1日のみとする地域もある。
行事にあたっては、地蔵菩薩像をきれいに水洗いしたり、化粧や前掛けなどの飾りを施したりし、お供えをする。地域の僧侶と輪になり数名で長い数珠を回す宗教的な儀式があるが、地域によっては金魚すくいやゲーム、食べ物などの屋台もあり、子どもたちにとってはこちらのほうが楽しみかもしれない。
過ぎ行く夏を惜しみ、実りの秋を楽しもう
まだまだ暑さが残る処暑の頃。これから少しずつ過ごしやすい季節になるが、真夏の疲れが出やすいときであり、季節の変わり目は体調を崩しやすいので、バランスの良い食事と良質な睡眠を心がけ、心身ともに健やかに次の季節を待ちたいものだ。
田んぼでは稲穂が色づき始め、秋の果物が美味しくなる食欲の秋は、もう間もなくだ。
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