とっておきの話

静かな空を目指して【キャプテンの航空教室】

文/千葉洋人 絵/吉井みい

本日もJALグループの翼をご利用くださいまして、誠にありがとうございます。

 
師走に入りまして寒さも増してきました。空気も澄んで、夜間のフライトでは街の夜景が一段と綺麗に感じられます。さて、地上から見上げた飛行機はいかがでしょうか? 羽田、伊丹や福岡をはじめ、世界でも都市部に近い空港では飛行機の騒音について多くの対策が行われており、代表的なものとして夜間の発着制限があります。今日は私たちパイロットが日常の運航のなかで行っている騒音対策についてご紹介します。

 
まずは着陸時、目的地への降下中はエンジンの推力(進行方向に推し進める力)はゼロに近くなり、音も静かです。しかし、さらに降下を続け、着陸の速度まで減速する段階になると、フラップ(高揚力装置)を翼の前縁、後縁に段階的に展開し、さらにギア(車輪)も下ろします。これらフラップ、ギアは離着陸には欠かせないものですが、飛行機にとっては抵抗になり、適切な進入角度を維持するためには大きなエンジンの推力が必要になります。つまり、降下中は静かになっていたエンジンの音が、着陸前に再び大きくなるのです。

 
そこで、着陸時はギア、フラップを出すタイミングを遅らせる「ディレイドギアダウン方式」「ディレイドフラップ進入方式」や、着陸時に浅いフラップを使用する「低フラップ角着陸方式」が騒音軽減運航方式として定められています。ただし、高度1,000フィート(着陸の約2分前)までには、フラップ、ギアをすべて出し、着陸前の最終点検(チェックリスト)を完了させなくてはなりません。パイロットは気流の状態や管制官との交信などを考慮して、そのタイミングが遅れないよう慎重に点検を行います。また、着陸後は逆噴射をフル(最大)に使わず、アイドル(最小)に抑えて主に車輪のブレーキで減速する「アイドルリバース方式」があります。

 
次に離陸時です。多くのジェット機は「急上昇方式」を騒音対策の標準としています。これは離陸後、フラップを展開したままの離陸形態で速やかに上空約900mまで上昇し、その後、加速に転じてフラップを格納して上昇形態に移行する方式です。

 
ここまでご紹介したものは、いずれも空港に近接した地域の騒音を少しでも軽減するためのものです。一方、空港から離れた地域の騒音軽減のために、JALでは、2013年頃より羽田空港を含む多くの空港の離陸において、「NADP 2」という方式を推進しています。これは離陸する空港で運用が認められている場合、離陸形態から上昇形態への移行を早める方式です。たとえば、羽田空港のように東京湾に向けて離陸し、海上で大きく旋回して高度を獲得してから東京、神奈川、千葉方面に飛行する場合、早めにフラップを格納して抵抗を減らした方が、陸地に差し掛かる地点の通過高度が高くなり、飛行ルート直下の騒音を軽減できるのです。

 
ここまで、騒音軽減のための飛行方式をご紹介しましたが、これらの多くはCO2排出量の削減にもつながっています。私たちパイロットにとって、安全運航が最大の使命ですが、騒音対策やCO2削減など環境への配慮も、今後ますます重要になると考えています。

 

千葉洋人 Hiroto Chiba
JAL
ボーイング777機長
出身地:東京都 
趣味:ギター
座右の銘:「ピンチはチャンス」

 

(SKYWARD2018年12月号掲載)
※記載の情報は2018年12月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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