とっておきの話

風を生かして【キャプテンの航空教室】

文/今村篤史 絵/吉井みい

風について、皆さまはどのように吹くイメージをお持ちでしょうか?

 
地上では風力発電、海上ではヨットや帆船などに生かされている風は、平面的に吹くイメージが強いかと思います。私がパイロットを夢見る商船大学生だった頃、風を動力源として航行する練習帆船「日本丸」で航海訓練をしたことがあります。全36枚の帆が風を受けると、総トン数2,570tの船体が動き始め、速度約10~12ノット(時速約18~22km)に達し、風と一体となって昼夜走り続ける姿は、自然の力を生かす人工物のなかで一番美しいのではないかと感じました。また、40mほどの高さにある帆が風を受け、膨らむ形状によって海面や上空の風の状況が目に見えるかのようにイメージでき、風は三次元に吹いているのだと実感したのを覚えています。風は地表や海面から上空に向かうにしたがって風向や風速が変化し、また上昇気流や下降気流というように上下方向にも吹いています。

 
空では、風を生かす乗り物の一つにグライダーがあります。グライダーは航空法では航空機のうち「滑空機」として分類され、自らエンジンを持たないものが多く、エンジンを持たないグライダーはウインチと呼ばれる曳えいこう航装置、または飛行機にワイヤーで引っ張り上げられます。約500m上空に達するとワイヤーから離れ、上昇気流に乗って滑空飛行を行います。

 
滑空とは「空を滑る」と書きますが、動力のない紙飛行機が空気中、滑り台を滑るように高度を下げながら前に進む飛び方です。グライダーは高度約1,000mあれば、訓練機では約30km、高性能機では約60kmの距離を滑空する性能があります。凄腕グライダーパイロットが操縦すると、日本では1,000km、世界では3,000kmを飛行した記録があります。グライダーが利用する風には、日射により地面付近の空気が温められ上昇する熱上昇気流や、風が山脈に当たってできる斜面上昇風や山岳波があります。グライダーパイロットは雲の位置や形状や体感から上昇気流をイメージし乗り続けられるように操縦しています。上昇気流にはグライダーだけでなく、小さな昆虫も、その昆虫を食べにきたトンビも乗ります。私も趣味でグライダーに乗るのですが、トンビは本能で気流を感じているためか上昇気流に乗るのがうまく、瞬く間に高く昇ってしまい、グライダーだけが低高度に取り残されたりすることもあります。そんな時はとても悔しいのですが、一方でトンビと同じ上昇速度で昇っているときは、風を生かせた満足感と共に、大自然との一体感を覚え、喜びを感じることができます。

 
そして皆さまが搭乗されている飛行機は、パイロットや運航管理者が出発前の準備段階から到着時までに遭遇する風について地域別・時間別・高度別に分析・予測。揺れの少ない快適な飛行計画の作成に役立てています。また、離着陸に際して危険な下降気流の発生がないか監視を行うことで、安全で快適な運航を目指しています。

 
皆さまの旅先ではどんな風が吹いていますか。心地よい風に包まれますように、北の空よりお祈りしております。

 
mr.imamura

今村篤史 Atsushi Imamura
JAL
北海道エアシステム SAAB 340B機長
出身地:福岡県
趣味:グライダー 野球
座右の銘:「我以外、皆我が師」

 

(SKYWARD2018年9月号掲載)
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