イギリス・ロンドンの鉄道は、産業革命の象徴の一つ。時を経て今、歴史あるレンガ造りの高架下が続々と生まれ変わっている。人々が集い、笑い、創造する、新たなカルチャーの発信地へ──。
目次
鉄道があるところは人が集まるところ
イギリスは、鉄道と共に走ってきた歴史がある。黎明期の蒸気機関車を描いたのは、18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命の時代に生きた画家、ターナーだった。その一枚には、線路を揺さぶり突き進む鉄の怪物への驚きが感じられる。
ロンドンの生命線として、産業都市を牽引した鉄道。目覚ましい発展を遂げる街を妨げぬよう、線路は高架橋に上げられた。あれから150年余り。人々は高架橋を仰ぎ、鉄の響きを頭上に生活してきた。高架下は庶民の生活の場であり、生きるエネルギーのる場所だったが、度重なる都市整備でなおざりにされていく。その周辺が、今、新たな「カルチャー・ハブ」となり、人が集まる場所として沸きに沸いている。高架下再び、なのである。
それまで貨物用だった蒸気機関車に初めて乗客を乗せ、ロンドン・ブリッジからグリニッジまで走ったのは、1836年のこと。高架橋のみの路線建設はこれが世界初だったが、テムズ川の氾濫にも耐えうるがっしりと積まれたレンガ、都市の盤石な骨組みを支える900近くのアーチは今も現存する。ヴィクトリア女王が戴冠したのは1837年、ターナーが機関車を描いたのは、1844年。新しいイギリスの幕開け、鉄道狂時代の始まりである。
世紀は変わってミレニアムを過ぎ、鉄道“高架下”狂時代が始まったのは8年前、東ロンドンの「モルトビー・ストリート・マーケット」がオープンした頃だろうか。ロンドンっ子の間で「あのマーケット、もう行った?」が合言葉になった。ずらりと連なるアーチの傍らに細く長く伸びる通り「ロープ・ウォーク」は、大英帝国の海運業を支えた船舶用のロープを作っていたところだとか。ここにも、歴史を支えた屋台骨が見え隠れする。
色とりどりの万国旗が下がり、祭り気分で肩が触れ合う土曜の午後。マーケットの運営マネジャー、ジョーダン・マイケル・ストーンさんは「ここは、食にうるさい人、フーディによるフーディのためのマーケット。一等地のレストランに引けをとらない、美味しいストリートフードが楽しめる場所です。嗜好が重ならないように出店を調整しているので競合もなく、コミュニティーとしても纏まっています」と誇らしげ。
抜群に美味しいものをワイワイ食べられて、ちょっといいワインやカクテルもある。洒落ているけれど飾らないスタイルが受け、長らくガレージや物置だったロンドンの高架下が賑わい始めた。賃料の安さ、小規模ビジネスにぴったりの間口、商業施設としてハシゴしやすいアーチの連続構成。その後、さまざまなエリアで高架下が見直され、再開発が続いている。
ロンドンの地下を走った郵便たち
2017年、ロンドンにオープンした「ポスタルミュージアム」では、1927年から2003年まで使われていた「メールレール」に乗ることができる。ロンドン市内の約10.5kmの距離を走っていた世界初の運転士のいない郵便専用の地下鉄道で、レール幅61cmのミニトレイン。ミュージアム見学者はルートの一部、約1kmの乗車体験ができる。家族連れにもお勧めの新名所だ。
Vol.2へつづく
Information about London
モルトビー・ストリート・マーケット Maltby Street Market
住所:Maltby St., London
営業時間:10:00~17:00(土)、11:00~16:00(日) 毎週金曜日のナイトマーケットは時期により営業時間が異なるためウェブサイトで要確認。
URL:www.maltby.st
ポスタル・ミュージアム The Postal Museum
電話:44-30-0030-0700
住所:15-20 Phoenix Place, London
営業時間:10:00~17:00 要予約。
URL:www.postalmuseum.org
グッド・ホテル・ロンドン Good Hotel London
市街の喧騒から離れ、ゆっくりと寛げる空間は、モダンでスタイリッシュな内装。駅も近く、ロンドン市内の観光にも最適。非営利団体が経営しているホテルなので、泊まっただけで社会貢献になる。
電話:44-20-3637-7401
住所:Western Gateway, Royal Victoria Dock, London
URL:www.goodhotellondon.com
〇コーディネーション:桑山美由紀
ロンドンへのアクセス
東京(羽田)より直行便が、東京(羽田、成田)よりコードシェア便がヒースロー国際空港へ毎日運航。
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