とっておきの話

パイロットの大切な準備【キャプテンの航空教室】

文/野村 幸平 イラスト/高橋 潤

本日もJALグループの翼をご利用くださいまして誠にありがとうございます。私は「ジェイエア」で機長を務めております野村と申します。

 
今年も暖かな風に心和む春となりました。新生活をスタートされた方も多いかと思います。入学、進学、入社された皆さま、おめでとうございます。これまで準備してきた成果を発揮する頃でもありますね。

 
今回は私たちパイロットがフライト前に行う準備についてお話しします。準備の中に、機長の出発前確認という航空法で定められた6つの確認項目があります。全項目を確認しなければ飛行機を出発させてはならない決まりになっており、フライトごとに副操縦士とともに行います。

 
飛行機を飛ばすための準備というと難しく思えるかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、皆さまもドライブや旅行に行く際は、天気や交通情報、ガソリンの残量や忘れ物がないかなどを確認しますよね。私の場合は釣り道具も忘れずに。これと同じです。

 
1つ目は、「当該航空機及びこれに装備すべきものの整備状況」です。整備士から点検、整備状況を聞くこと、またパイロット自らが飛行機の外部を目で見て点検し、操縦室内では操縦桿などが確実に作動するか点検を行います。

 
2つ目は、「離陸重量、着陸重量、重心位置及び重量分布」です。この項目は飛行機ならではの内容で、滑走路内で離着陸できる重量であるか、操縦性などに影響がない重心位置であるかを確認します。この重心位置の幅は、私の乗務するエンブラエル170型機(全長約30m)では、主翼付近の約60cm以内に収めなくてはならず、慎重な確認が必要となります。

 
3つ目は、「航空情報」です。飛行場に工事中などで使用が制限されている場所がないかなど、設備や航空路に関係する情報を確認します。

 
4つ目は、「航行に必要な気象情報」です。各飛行場の天候を確認し、出発の可否を判断するとともに、航路上の悪天域を確認した上で飛行する高さや揺れを予測し、シートベルトサインの消灯・点灯のタイミングを判断します。

 
5つ目は、「燃料及び滑油の搭載量及びその品質」です。目的地までに必要な燃料はもちろんのこと、目的地への着陸が難しいと判断した場合を想定し、代替空港へ向かうために必要な燃料などを確認します。

 
そして6つ目が、「積載物の安全性」です。貨物室に積載した荷物が確実に固定されているか、ドライアイスなど危険物の輸送の有無、それらが積載されている場所を確認します。

 
以上の6項目の確認が終わると、晴れてお客さまにご搭乗いただき出発することができます。少しでも私たちの仕事風景をイメージしていただければ幸いです。

 
今日も社員一同が、一つ一つの準備を確実に行い、皆さまに安全なフライトをお届けできるよう励んでおります。引き続き、空の旅をゆっくりとお楽しみください。

 

野村 幸平 Nomura Kohei
J-AIR
エンブラエル170/190型機 機長
出身地:神奈川県
趣味・特技:釣り、ドライブ
座右の銘:一意専心

 

(SKYWARD2023年4月号掲載)
※記載の情報は2023年4月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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