とっておきの話

新たな挑戦へ【キャプテンの航空教室】

文/秋田 大洋 イラスト/高橋 潤

ご搭乗誠にありがとうございます。この9月に就航3周年を迎えたエアバスA350型機にまつわる三つのチャレンジについてお話しいたします。

 
従来の新機材導入では、メーカーマニュアルを我々の考え方ややり方をベースにJAL仕様に作り直すのが一般的でした。しかし、A350型機は、他社の経験やノウハウが詰まったエアバス社のマニュアルをほぼそのまま取り入れるという方針を採用し、海外他社などとの知見の共有を進めています。

 
弊社パイロットの大多数がエアバス初心者であり、これは大きな挑戦だった訳ですが、グローバルスタンダードの規定類や訓練体系を吸収することによって、何年も運航してきた“先輩”他社と変わらない品質のフライトを就航初便から提供することができました。また、他社で起きた事例などの世界中の情報を速やかに共有し、日々のフライトに生かすことが可能となっており、この挑戦は成功だったと感じています。

 
また、シミュレーター訓練は入念な準備のうえ、既定の科目を完璧にやってみせるもの、という文化から、何が起こるかわからない実践的な状況のなか、レジリエンス(困難な状況からの回復力)を発揮して知識と経験を積み上げていく、という世界標準の考え方となりました。「失敗から学ぶ」という発想への転換を迫られた格好です。若いパイロットほど柔軟に適応できているのは、変化への対応という意味では世の常なのかもしれません。もちろん私を含めたベテランや教える側である教官陣も努力と挑戦の日々を送っています。

 
最後は機体そのものについてです。当初、機体側から提供される情報量の多さに正直面食らいました。しかし、必要なときに必要なものを表示してくれたり、不具合の情報がマニュアル類や手順とデジタルでシームレスにつながっているなどといったA350型機の特徴を理解し、常に飛行機と会話しながらフライトをするというイメージをつかむことで、このハードルを乗り越えることができました。

 
ちなみに「ボーイングは人間中心、エアバスはコンピューター中心の設計思想」という説がありますが、私は全く異なる印象を持っています。むしろ、人間の特性を深く研究し、システムや手順をパイロットと調和させることに注力したデザイン、つまり「エアバスも人間中心」だと感じています。エアバス社の教官のなかには、操作手順のリズムや操縦室の二人の掛け合いを音楽にたとえて、オーケストラの指揮者としてハーモニーを奏でるようにフライトしなさい、と教える方もいるそうで、こんなところにもエアバスの哲学が表れていると思います。

 
これからもA350型機の高い環境性能や運航の工夫などにより、CO₂排出量削減に積極的に貢献していくと共に、新たなチャレンジとして2023年度には国際線への展開が待っています。引き続きJALグループの翼をよろしくお願いいたします。

 

秋田 大洋 Akita Taiyo
JAL
A350型機 機長
出身地:東京都
趣味・特技:サーフィン、スキー、整理整頓
座右の銘:ご機嫌は自分でつくるもの

 

(SKYWARD2022年9月号掲載)
※記載の情報は2022年9月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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