使われなくなった鉄道の高架上に、公園や遊歩道を配し人気を集めるのがパリとニューヨークの「ハイライン」なら、ロンドンは「ローライン」で勝負。東にロンドン・ブリッジ、西にウォータールーと、今や年間約140億人が乗降する二つの駅をつなぐ全長約2kmの高架下に、19世紀以降いつの間にか失われた遊歩道を再導入する動きが活発化している。
目次
失われた遊歩道を辿って
復活劇のこけら落としは、2017年にオープンし、衆目を集める「フラット・アイロン・スクエア」。これまで、湿気を利用したキノコ栽培や、音響を生かしたナイトクラブなどで一帯のアーチは「暗躍」し、さまざまなビジネスが花咲いたというが、現在は音楽、フード、スポーツ観戦と、毎日のように趣を変えて昼夜楽しめる施設となった。
意外なようだが、ヨーロッパでは一般的な「コミュニティーが憩える広場」をロンドンではあまり見掛けない。ここは周囲に企業も数多くあるため、昼休みや終業後に集うグループも多く、一杯のビールと開放的な空気に笑い、愉しむ姿にこちらも顔が綻ぶ。
アンティーク・マーケットの週末。ライブ音楽と豆電球が夜気に輝く。冬から初春は建物をログハウスやスキーロッジ風に仕立て、オーロラのディスプレイで夜空を満たすという。約5年後には、ルートも3倍に拡張予定だ。ローラインが、都市の隙間を埋めていく。
週末、「ロンドン・フィールズ・ブリュワリー」がビールフェアを催すと聞き、足を向ける。陽光眩しい空を列車が掠める高架下に、ロンドナーによる、ロンドナーのためのビール醸造所があった。醸造所のある東ロンドンのハックニー地区は、元来、労働者階級が住むエリア。並べてもらったビール3種類のラベルには地元のアーティストの手で、往年のハックニーの住人がパンク風に描かれている。醸造所がオープンしたのは2011年。それはロンドンが揺れた年でもあった。蓄積した社会のわだかまりが暴動につながり、多くの被害が出たのだ。
「この地域は特に荒れました。2、3日続いた暴動が沈静化するまで身を潜める必要があり、その時間を利用してシャッターの奥でビールの醸造を始めたと聞いています。さまざまなレベルで欲求や不満が噴出しましたが、何かを模索していた若者が、本当にやりたいことを実行に移した時期でもあったのではないでしょうか」とマネジャーのディパック・ネイヤーさん。
お仕着せを拒み、サブカルチャーとしてのパンクが萌芽した土壌に育ったビールは、予想に反して味わいが軽い。ほのかなバナナ風味の「スリーモンキーズ」はラム酒のチェイサーにもよさそうだ。ブリュワリーアンバサダーのガブリエル・バートゥーチさんは言う。「イギリスのビールには重厚なイメージがあり、若者離れの原因でもあった。それを払拭したのがこのビールです」。
ほかの小さな醸造所からも自慢のビールが集まるこの週末は、地元の人が郊外の友人を連れてきていたり、待ち合わせなのだろう、歓声をあげながらハグする人たちもいる。シャッターの降りた表通りからひょいと裏に入りこめば、そこが彼らの秘密基地なのだ。
Vol.3へつづく
Information about London
フラット・アイロン・スクエア Flat Iron Square
電話:44-20-3179-9800
住所:64 Southwark St., London
営業時間:12:00~21:00(月)、8:00~24:00(火~金)、9:00~24:00(土)、9:00~20:00(日) 土日の日中は、洋服や本などの市が立つ。
URL:www.flatironsquare.co.uk
ロンドン・フィールズ・ブリュワリー London Fields Brewery
電話:44-20-3960-7820
住所:369-370 Helmsley Pl, London
営業時間:17:00~24:00(木)、16:00~24:00(金)、12:00~24:00(土・日) 月~水
URL:www.londonfieldsbrewery.co.uk
グッド・ホテル・ロンドン Good Hotel London
市街の喧騒から離れ、ゆっくりと寛げる空間は、モダンでスタイリッシュな内装。駅も近く、ロンドン市内の観光にも最適。非営利団体が経営しているホテルなので、泊まっただけで社会貢献になる。
電話:44-20-3637-7401
住所:Western Gateway, Royal Victoria Dock, London
URL:www.goodhotellondon.com
〇コーディネーション:桑山美由紀
ロンドンへのアクセス
東京(羽田)より直行便が、東京(羽田、成田)よりコードシェア便がヒースロー国際空港へ毎日運航。
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