旅への扉

NEW YORK ハーレムの粋 [Vol.2]

文/堂本かおる 撮影/柳川詩乃

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ハーレムは今、大きな曲がり角を迎えている。黒人の街として100年もの歴史を持ち、豊かな黒人文化を現在に伝える貴重な地区でありながら、“ジェントリフィケーション”の波と対峙させられている。ジェントリフィケーションとは単なる再開発ではなく、地区が高所得化することによって旧来の住人が住めなくなる現象を指す。

 

変貌の時を迎え

church

▲古い教会の一つ。

 
ハーレムはニューヨーク、マンハッタンの110丁目より北の地区を指す。タイムズスクエアから地下鉄でわずか15分の距離にありながら、かつては「危険な犯罪地区」と呼ばれ、部外者が足を運ぶことはまれだった。だが、20年ほど前に再開発が始まり、廃墟を取り壊して建てたマンションに多くの白人が流入した。

 
Harlem Hospital

▲ハーレム病院。

 
北米にアフリカからの黒人が初めて連れて来られたのは今から400年前。以後240年の長きにわたって黒人奴隷制度が敷かれた。やがて南北戦争が起こり、リンカーン大統領による奴隷解放宣言がなされたのが1863年。その後も人種差別と貧しさにあえいだ南部諸州の黒人たちは、自由と仕事を求めてニューヨークを含む都市部への移動を開始した。本来は白人のために造られたハーレムという街が、紆余曲折を経て黒人街となったのは1920年代だ。

 
1950年代半ばになると黒人の権利を求める公民権運動が起こり、キング牧師やマルコムXが活躍した。苦闘の末、一切の人種差別を禁じる公民権法を1964年に勝ち取るが、差別と貧困はその後もさらに続くこととなる。今のハーレムに暮らす若者たちが”Black Lives Matter”と呼ばれる運動に加担する理由だ。

 
African American Day Parade

▲毎年恒例のアフリカン・アメリカン・デイ・パレード。

 
同時にアフリカから持ち込まれた文化をもとにアメリカで培われた独自の黒人文化──音楽、ダンス、アート、文芸、ファッション、食、スポーツが大きく広がり、世界中の人々を魅了し続けた。ハーレムは常にその中心地だった。

 
今、ハーレムは伝統の黒人文化と再開発によって流れ込んだ新しい波がぶつかり、混じり合い、新たなカルチャーを生み出そうとする端境期にあるのだ。

 

伝統のチャーチ・ハット

Church hat

▲教会でチャーチ・ハットを被って祈る女性。

 
ハーレムには洗練されたフォーマル・ウェアの歴史と伝統がある。

 
オリジナル・ハットのブティック、「ハーレムズ・ヘヴン・ハッツ」のオーナー、イヴェッタ・ペティさんは、自身の母親の言葉を引用した。「若い頃はパーティーのために、今はジーザスのためにドレスアップ」

 
ms.ivetta

▲ハーレムズ・ヘヴン・ハッツのイヴェッタさんと帽子。

 
昔、土曜も含めて毎日懸命に働かざるを得なかった黒人たちにとって、日曜はおしゃれを楽しめる唯一の日だった。それでも若者は土曜の夜のパーティーに出掛け、リンディ・ホップと呼ばれるダンスを踊ったが、いくら夜更かししても日曜は教会に行かなければならなかった。

 
教会でも精一杯着飾って“ゴージャス!”と言われるために、女性たちは帽子を造花、チュール、フェザーで華やかに飾った。これが黒人女性特有の“チャーチ・ハット”だ。

 
イヴェッタさんは、FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)でファッション・マーケティングを専攻したが、趣味で作り始めた帽子が評判を呼び、やがて自身の店を持つに至った。場所は「ファッションとヴァイブレーションに満ちた」ハーレムに決めた。

 
Harlem's Heaven Hat Boutique

▲「ハーレムズ・ヘヴン・ハッツ」の帽子

 
メンズ・ブティック「ハーレム・ハバダシェリー」のオーナー、ガイ・ウッドさんのデザインはハーレムの伝統に新しいストリート・ファッションをブレンドしたものだ。

 
「昔、ハーレムの人々はお金がなくとも着飾って出掛けた。教会には“最高のスーツ”を着ていかなくてはならないが、一着しか持っていない。そこで先週は普通のネクタイ、今週は蝶ネクタイ、来週はタートルネック・シャツと工夫するわけだ」

 
Dapper Dan

▲左/現在はグッチと提携する伝説のデザイナー、ダッパー・ダンさん。右/ハーレム・ハバダシェリー経営者のウッド夫妻。

 
ガイさんのキャリアは、大柄な男性セレブのフォーマル・ウェアから始まった。ノトーリアスB.I.G.、ヘヴィ・D、ファット・ジョーなど、その体型をステージネームとしたラッパーが少なからずいる。彼らはレッドカーペットにヴェルサーチを着て行きたくともサイズがなかった。ありきたりなデザインでは満足できないガイさんは、花柄やパステルカラーなど女性用の生地を使った。マッチョで大柄な男性セレブはそれを見事に着こなした。

 
「人と違ったデザインを、恐れはしないからね」

 
Vol.3へつづく

 

 

Information about Harlem

Mama Foundation For the Arts

 
ハーレムズ・ヘヴン・ハッツ Harlem’s Heaven Hats
黒人女性が教会に被っていくチャーチ・ハットを揃えた帽子店。雑誌のモデルが着用し、メトロポリタン美術館に展示されたことも。
電話:1-212-491-7706
住所:2538 Adam Clayton Powell Jr. Blvd., New York
URL:www.harlemsheaven.com

 
 
ハーレム・ハバダシェリー Harlem Haberdashery
伝統的なフォーマル・ウェアとストリート・カジュアルをミックスさせたメンズ・ブティック。店内インテリアも一見の価値あり。
電話:1-646-707-0070
住所:245 Lenox Ave., New York
URL:www.harlemhaberdashery.com

 
〇コーディネーション/堂本かおる

 

ニューヨークへのアクセス

東京(羽田・成田)からジョン・F・ケネディ国際空港へ、JAL直行便が毎日運航。

 

(SKYWARD2019年3月号掲載)
※記載の情報は2019年3月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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