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半夏生とは?2023年は7月2日|食べ物や植物なども解説

京都には(植物の)半夏生(はんげしょう)の庭を有する古刹があり、初夏の頃になると白く色づいた半夏生の庭の特別公開を行う。京都の初夏の風物詩にもなっているのでご存知の方もいるかもしれない。このように、半夏生は植物の名前としても知られているが、実は暦の上での雑節の一つでもある。今回は半夏生について深掘りしてみた。

 
この記事では、

 
・半夏生の意味や由来
・2023年の半夏生はいつ?
・半夏生に食べるものは?
・半夏生と呼ばれる植物について

 
などを紹介する。

 
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半夏生とはどんな時季?

半夏生は、二十四節気の「夏至」をさらに3つに分けた七十二候の中の雑節(ざっせつ)の一つ。雑節とは、二十四節気、五節句などの他に、日本独特の繊細で移ろいやすい季節を、より正確に把握するために作られた特別な暦日を指す。人々は、それを日々の生活の目安にした。ほかに馴染みのある雑節といえば、八十八夜、入梅、土用など。これらは、知らず知らずのうちに、私たちの生活の中にも深く根付いているのがわかるだろう。

 
雑節は古の時代に、農業や漁業などを行う時期を見極めるために成立したものだ。特に多くの人々が従事し、生きるために重要だった農耕は季節や気象に左右されることも多く、農作業の時期や節目を正確に見極める必要があった。

 

 
半夏生は、夏至から数えて11日目を指す。初夏は農家にとって繁忙期だ。通常、田植えは4~6月までの間に行われるが、昔は養蚕などと兼業することも多く、一連の作業を手際よくテキパキと終わらせるためには、スケジュール管理が重要で、そのための目安となる日を定めておく必要があった。半夏生といえば、誰に確認するまでもなく、その日までには田植えを終えておきなさい、という目安となっていたのだ。

 
「チュウ(夏至)は外せ、ハンゲ(半夏)は待つな」「ハンゲの後に農なし」「半夏半作」など、昔からの戒めも多くある通り、半夏生より後に田植えをすると、秋の収穫量が激減してしまうといわれ、半夏生は農業において重要な節目だった。その習慣は受け継がれ、現在に至っている。

 
ただし、雑節は本州(江戸)を基準に作られているため、地域によっては若干季節にズレが生じる。半夏生を基準にしながらも、地域には、それぞれに適した田植え時期があることも記しておきたい。

 
実は雑節の起源は定かではない。文献にこの言葉が登場するのは、江戸時代頃だとか。以下、参考までに半夏生以外の雑節も紹介しておく。

 

節分 各季節の始まり日の前日
彼岸 春分・秋分を中日(ちゅうにち)とし、前後3日を合わせた各7日間
社日 春分、秋分にもっとも近い戊(つちのえ)の日
八十八夜 立春から数えて88日目(立春の87日後)
入梅 梅雨入りの時期を示す。太陽黄経が80度の日
土用 立春・立夏・立秋・立冬の直前の各18日間
二百十日 立春から数えて210日目(立春の209日後)
二百二十日 立春から数えて220日目(立春の219日後)

 
なお「節分」「彼岸」「土用」についてはこちらの記事でも詳しく紹介しているので参考にしてほしい。

 

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2023年の半夏生はいつ?

 
一般的に半夏生とは、夏至から数えて11日目となる7月2日頃から、七夕(7月7日)に至るまでの5日間のことを指す。したがって2023年の場合は、7月2日(日)から7月6日(木)が半夏生となる。また天文学的には、「太陽黄経が100度を通過する日」を半夏生と定義しているので、2023年の半夏生は7月2日(日)ということになる。

 
半夏生の時季の雨については、「天から毒が降ってくる」などと、ジメジメした梅雨時ならではのネガティブなイメージの言い伝えも多い。また大雨の時季としても知られ、この時季に降る大雨のことは「半夏雨(はんげあめ)」と呼ばれた。これも農作業や生活の中で、雨に備えろ、という注意喚起なのだろう。同時に半夏生は、「物忌みの日」ともされていたそう。よって、この間は農作業を休んだり、休日にする地域などもあるようだ。ここで、半夏生にまつわる地域の言い伝えを紹介しよう。

 

三重県

熊野地方、志摩地方の沿岸部では半夏生の時季にハンゲという妖怪が徘徊するとされ、この時季に農作業を行うことへの戒めとなっているとか。

 

青森県

半夏生の後に田植えをすると、1日につき1粒ずつ収穫が減るといわれている。

 

埼玉県

その時季になると、めったに咲かない竹の花が咲いたりするので、竹林には入るな、といわれている。ちなみに竹林に花が咲くのは120年に1度ともいわれ、不吉の象徴とされているのだとか。

 

▲珍しい黒竹の開花

 

群馬県

嬬恋村には「ハゲンサン」という伝承があり、半夏生の時季にネギ畑に入るのは禁忌とされている。働き者の「ハゲンサン」は、働きすぎだと天の神様を怒らせ、ネギ畑で焼き殺されてしまったという物語から。

 

長野県

佐久地域では、人参やゴボウのタネを「ハンゲ人参、なわしろゴボウ」と声をかけながらまくとか。

 
また、半夏生には毒気が降るので野菜を食べない、竹節虫が生じる時だから竹の子を食べない、毒が入るので井戸に蓋をする、などの俗習があるとか。湿気が多く、食中毒の起こりやすい季節なので食べ物や飲み物に対して警戒していたのでは?とも推察できるが、定かではない。とにかく、農作業の疲れが出る頃だから体を養生し、無理せずに休め……ということなのかも。

 

半夏生に食べるものとは?

さて、やや不吉な伝承が多い半夏生だが、各地には、この時季に食べると良いとされているものもある。スーパーなどで売り場に並ぶことも多いので、ご家庭のメニューに取り入れてみては。

 

タコ

 
この時季の鮮魚売り場などでよくおすすめされているのがタコ。どんな関係があるのかあまりイメージがわかないが、元々は田植えを終えた農家が、豊作を祈願した後、神様に捧げる食べ物としてタコをお供えしたことが始まりだとか。主に関西方面の風習だという。

 
なぜタコかというと、タコの足にある吸盤のように、苗がしっかり根付き稲がたくさん実るよう願いが込められているとか。アミノ酸の一種であるタウリンの含有量が豊富なタコは、疲労回復の効果があり、疲れた体を癒すのにもぴったりだ。夏バテ防止にも役立つ。半夏生の時季は、農家にとって養生の時季でもあるので、いわれてみれば納得する風習だ。

 

小麦餅

主に奈良県や河内地域の郷土料理で、半夏生の頃に収穫した小麦で餅を作る。半夏生餅(はんげしょうもち/はげっしょうもち)ともいう。ちょうど田植えも終わり、一服するときの労いのスイーツともいうべき存在だ。つぶし小麦ともち米を混ぜて餅をつき、きな粉をまぶして食す。

 
田植えがひと段落するこの時季に、慰労の念や豊穣への願いを込めて「さなぶり」という行事を行う地域もあり、その時に食すことからさなぶり餅ともいわれる。田の神に感謝し、水田にお供えすることも。小麦が入っているため、歯切れがよく、消化も良いため胃もたれしないのだとか。半夏生の頃には、和菓子店などで販売されることも多いから、気になる人はチェックしてみて。

 

農林水産省「うちの郷土料理」
URL:https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ha_gesshou_mochi_nara.html

 

うどん

 
「うどん県」として名高い香川県では、日常的にうどんを食すのはいうまでもないが、地域によっては特に半夏生にうどんを食べるという風習があるそう。なぜかというと、これも小麦と関係する。収穫したばかりの小麦でうどんを打ち、農作業を手伝ってくれた人に振る舞っていたことに端を発したのだとか。

 
そしてここから生まれたのが、「うどんの日」だ。1980年に、香川県の「本場さぬきうどん協同組合」が、7月2日をうどんの日と定めたため、讃岐地方では半夏生とうどんは切っても切れない関係になっている。タコを具材にした「タコうどん」という合わせ技もあるという。

 
うどんの日については、こちらの記事で詳しく紹介しているのでご参考に。

 

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焼き鯖

 
福井県の若狭地域では、半夏生の時季に、脂ののった鯖の丸焼きを食す習慣がある。江戸時代、農作業で疲れた体を癒し、盆地特有の蒸し暑い夏を乗り切るための貴重なスタミナ源として、越前大野の領主が領民に配ったのが始まりという。

 
令和3年度には、大野市の「半夏生さばの食文化」が文化庁の定める「食文化機運醸成事業100年フード」に認定。創意工夫された地域特有の食文化として認知度も高い。もともと、福井県は脂ののった上質な鯖が水揚げされる、鯖の名産地として知られ、古くは奈良時代から、鯖を朝廷に納めていた。

 
中でも、鯖を背開きにして竹か茅の串に刺し、頭から尾まで丸ごと焼く焼き鯖は、シンプルでありながらも上質な鯖の風味が堪能できる一品。しょうが醤油で食すのが定番だとか。鯖は血液サラサラ効果があるといわれているDHA、EPAの含有量が多く、ビタミンも豊富。夏のスタミナ源としてもバッチリだ。

 

芋汁

長野県のある地域では、長芋汁やとろろ汁を食すという。ドロッとして、長く伸びる独特の食感があり、長生きを祈るものとして喜ばれた。長芋や山芋は非常に栄養価が高く、滋養強壮、疲労回復にも良い食材だ。夏バテ防止に積極的に取り入れたい。

 

半夏生という植物について

ここまで雑節の半夏生について解説してきたが、半夏生という名前は、夏至の後開花する半夏(はんげ/カラスビシャク)いう薬草や、白く化粧をしたような葉が特徴的な半夏生(半化粧/カタシログサ)という植物からつけられたという説もある。これらの草が生えるのを目安に、田植えを終わらせるようにしたとか。

 

▲半夏(カラスビシャク)

 
由来といわれているものの1つ、半夏はサトイモ科の一種で、非常に繁殖力が強い植物だ。根茎を乾燥させたものは、半夏という生薬として使われるが、抜き取っても根が地中深く残り根絶が難しいため、農作業にとっては厄介な雑草でもある。この半夏が、初夏から夏にかけて柄杓のような独特の形状の花を咲かせるので、その開花を目安に田植えを終わらせるようにしたという。

 
もう1つ、ズバリ半夏生という植物は、あまり馴染みがないが、日本など東アジアを中心に植生するドクダミ科の多年草だ。独特の臭気をもち、水辺や湿地に多く自生する。通常、6月の終わりから7月の初め頃に白い花穂をつけ、そのすぐ下の葉が同時に半分ほど白くなるのが特徴。その様子が化粧しているように見えることから、半化粧=半夏生といわれるようになったそう。

 

▲京都・建仁寺両足院の半夏生

 
冒頭で記した京都の古刹の庭は、この半夏生の白が見どころだ。利尿、解毒、解熱作用があるとされ、三白草(さんぱくそう/さんばくそう)という生薬名もある。この時季に陰毒が生じるとか、毒気が降って井戸に入ると言い伝えられたのは、半夏生に毒があるからだともいわれている。ところで、半夏生は水辺や湿地帯の減少によって生育地が失われつつあり、絶滅危惧種に指定している都道府県もある。もし見かけたら、ぜひじっくりと観察してみてほしい。

 

梅雨から夏にかけての時季を元気に乗り切ろう!

梅雨が明けると、一気に夏本番だ。半夏生までに重労働である田植えを済ませ、英気をしっかり養って夏を乗り切ろうとする昔の人の知恵や工夫がおわかりいただけたことだろう。現代でも、その意味を知ると「なるほど」と思うことも多い。紹介した行事食を食卓に取り入れるなどして先人たちの暮らしに思いをはせながら、来るべき夏にしっかりと備えてほしい。

 
 

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